創業50年余りの老舗「正和堂書店」(大阪市鶴見区)が、文庫本の購入者に無料配布しているオリジナルブックカバーが話題だ。アイスバーにクリームソーダ、ポップコーン。20種類以上の多彩なデザインが好評を博し、カバー目当ての来客や売り上げの増加につながっている。電子書籍の台頭や新型コロナウイルス禍で苦境に立たされる書店業界。活路を探る発想の根底にあるのは、競争ではなく「協調」という。
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それは、どこにでもあるブックカバーではない。例えばアイスバー。「棒」の部分はしおりになり、カバー部分の「アイス」はスイカ味やソーダ味など色とりどり。ピアノのカバーのしおりは「鍵盤」だ。遊び心あふれるデザインは、手に取った人を魅了する。
昭和45年開業の正和堂書店でカバーを手掛けたのは、大学でデザインを学んだという創業者の孫の小西康裕さん(35)。「インスタ映(ば)え」を意識し、平成29年夏に第1号となるアイスバーのカバーを店頭で配布したところ、1カ月で100枚が在庫切れに。交流サイト(SNS)でも「読書が楽しくなる」「久しぶりに本を読みたくなった」などと反響を集めた。
小西さんは普段、印刷会社に勤務しながら休日に家業を手伝っている。アイスバーのブックカバーの人気に背中を押され、忙しい業務の合間を縫っては季節ごとの新作カバーを追加。その効果で文庫本の売れ行きが回復しただけでなく、ブックカバー目当ての来客も増えるようになった。
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噂は海を越え、ブックカバー文化が浸透していない米国やフランスのメディアも同店の取り組みを紹介。小西さんは「海外の人にとっても需要があるんだと、びっくりした」。
そんな折、コロナ禍が直撃し、外出自粛の影響で全国の書店が苦境に追い込まれた。逆風下でも小西さんは諦めず、仕掛けた。昨春、インターネットで資金を集めるクラウドファンディングを実施。集めた約150万円を元手に全国261の書店に約10万枚のブックカバーを送った。300枚が1日で在庫切れになる店舗もあり、大きな反響を呼んだ。
生き残りをかけ、他業種との連携も模索する。今年1月にはコーヒー用品メーカーの「カリタ」(横浜市)とのコラボレーションで、コーヒーができるまでを表現したカバーとしおりの4セットを作成。しおりはミルクカップやドリッパーなどをかたどったもので、プロジェクトには関西の書店60店舗と喫茶店240店舗が参加した。プロジェクトを機に、縁のなかった喫茶店に足を運ぶようになった人もいるという。
「ブックカバーを配り始めてから店頭で『読書が楽しくなった』という声をたくさんいただくようになった」と小西さん。出版不況の中、一店舗で難局を乗り越えるのには限界がある。だからこそ、こう考えている。「街の本屋が競争するのでなく、協調して本や書店の魅力を伝えていくことができれば」。ブックカバーはその象徴だ。新たなカバーや企画を通し、リアルな書店の面白さを発信していく。(木下未希)