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冷凍食品を「家で食べる」とは限らない…セブンの大ヒット商品「カップ入り冷凍チャーハン」誕生秘話

PRESIDENT Online

オフィス街の店舗では、サラダが売れていた

2つ目は、セブン‐イレブンの店舗での例です。

都心のオフィス街にあるセブン‐イレブンの店舗では、昼のピーク時にサラダが大量に売れていました。主に女性客が弁当類と一緒に買っていました。

セブン‐イレブンでは、オペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC=店舗経営相談員)といって、一人で7~8店舗を担当して、経営のアドバイスを行う社員がいます。

あるとき、POSデータを見ていた担当OFCが不思議な数字を見つけました。朝の出勤時のピーク時にも、数こそ昼とは比べものにならないほど、ケタ違いに少ないものの、サラダが売れているのを見つけました。

店舗スタッフに聞くと、出勤途中の若い女性客が買っているといいます。

ダイエット志向の女性は朝食にもサラダを買うのではないか。ここに「サラダを朝食として食べる」という潜在的なニーズがあるのではないか。OFCはオーナーと相談し、朝のピーク時に向けて、サラダの大量発注を仕かけました。

出勤途中に買って、昼の混雑を避けたい需要

仮説は見事に的中しました。女性客が朝食がわりにサラダを買ってオフィスで食べるというニーズに加え、朝、出勤途中で買って会社の冷蔵庫に入れておいて、昼の混雑を避けることを目的とした需要もありました。

以降、その店では朝もサラダが大量に並ぶようになって、売り上げを3~4倍に増やし、潜在的ニーズを掘り起こしていったのです。

そのOFCはそれまでは、売り手側の発想で、「サラダは主に女性客が昼食と一緒に買うもの」と思い込んでいました。その思い込みのままであったら、POSデータを見ても昼のピーク時のサラダの販売個数に関心が向いたままで、朝のサラダの販売データを見ても、さほど気に留めなかったでしょう。

気づきをもたらしたのは、やはり問題意識でした。そのOFCは「健康志向が強いお客様には取り組み方次第でもっとサラダを買ってもらえるのではないか」という問題意識をもっていました。

もっと買ってもらうためには、「お客様の立場で」考え、お客様の心理を読まなくてはならない。そこで、売り手から買い手へ、視点を切り替えてPOSデータを見るようになって、初めて朝のピーク時の販売データが意味をもって浮かび上がったのです。

過去の記録ではなく、潜在ニーズを探る“手掛かり”

忘れてならないのは、販売データを単なる過去の記録として見るのと、マーケティングに使うのとでは、読み方が違うということです。

マーケティングにおいて重要なのは、売れ方にお客様の潜在的ニーズを察知させるような新しい兆しや動きがないか、変化を探ることです。

それには、「冷凍食品は家で食べるもの」「サラダは主に女性客が昼食と一緒に買うもの」といった売り手としての先入観や固定観念を捨て、買い手の視点に転換して、頭をまっさらにして考えることです。

すると、個数はさほどではなくてもすぐに売り切れる商品や、売り上げが伸びている商品があることに気づき、「ここに潜在的なニーズがあるのではないか」と仮説を立てることができる。

どうすれば、数字の向こうにお客様の声を聴くことができるか。販売データは過去のデータですが、売り手から買い手へ視点を変え、問題意識をもって見れば、時間軸に沿ったデータの動きが浮かび上がって先行情報にすることができるのです。

ビッグデータは仮説を立てる“ツール”にすぎない

そして、もう一つ明確にいえるのは、この潜在的ニーズはビッグデータの解析からは導くことはできなかったということです。

先ほども述べたように、AIは、集積したビッグデータの中から与えられた条件をもとに、特定のパターンを抽出するのは得意ですが、それは過去の購買傾向のパターンであり、これまでにない消費スタイルを見つけ出すことはできません。

どんなにデータを大量に集め、AIで分析しても、AIにはそのデータが出てきた理由はわからない。理由がわからなければ、その分析には意味がありません。データの向こうに買い手の心理を読み、仮説を立て、結果を検証して、データは初めて意味をもつ。

データはあくまでもツールにすぎず、仮説を立てないビジネスなどありえないのです。

人間は未来に向かって生きる存在です。常に新しい価値を求め、昨日求めたものを明日も求めるとは限りません。

売り手に求められるのは、どうすればお客様により満足してもらえるか、お客様の不満をいかに解消するかを、お客様の立場で考え続ける強い問題意識や目的意識です。その問題意識や目的意識が仮説を導き出していく。

とりわけポストコロナ社会は、在宅勤務が一定割合で継続し、自由時間が増え、その時間を有効に使おうとする「新しい消費」は、いままで誰も経験したことのない未知の世界です。「新しい消費」の時代に向けて、いま求められるのは、ビッグデータを離れ、自分の頭で考え抜くことです。

考えなければならないのは、社会はコロナ禍以前の状態にそのまま戻ることはないということです。ポストコロナ社会では、これまで以上に人間のもつ仮説力が問われることになるでしょう。

鈴木 敏文(すずき・としふみ)

セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問

1932年長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)を経て63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設し78年社長に就任。92年イトーヨーカ堂社長、2003年イトーヨーカ堂およびセブン-イレブン・ジャパン会長兼CEOに就任。05年セブン&アイ・ホールディングスを設立し、会長兼CEOに就任。16年から現職。著書『わがセブン秘録』『挑戦 我がロマン』など多数。

(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木 敏文)


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