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【書評】『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』北村滋著 対中ビジネス戦略の指針

経済安全保障推進法が5月に成立した。本書は、最前線で準備の指揮を執ってきた前国家安全保障局長の渾身(こんしん)の書である。

『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』
『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』

安倍晋三政権の後半、中国の台頭によって米国の対中警戒感が急激に強くなった。通信基盤からの情報流出と有事の破壊活動を防ぐ5G(第5世代移動通信規格)問題や、軍事・民生双方の基盤的技術でありながら中韓台の受託生産に依存しすぎている半導体問題など、経済絡みの問題が矢継ぎ早に出てきた。

しかし、敗戦と冷戦の余波で、日本では安全保障の世界と経済の世界は完全に切断されていた。ビジネス界や経済官庁は、軽武装で経済成長を楽しんだ鼓腹撃壌の時代感覚のままであり、国家安全保障の観点から対中ビジネスに規制が加わるという発想自体が希薄だった。

著者は外事警察のトップとして、内閣情報官として、中国やロシアの諜報機関がどのようにして日本から技術を盗み出しているかを知悉(ちしつ)する。急浮上した経済安保問題こそ天から与えられた職務と映ったのではないか。

経済安保を理解するには、中国の台頭と米中大国間競争をどう戦略的に捉えるかという外交上の知識のみならず、中国などの諜報機関がどう情報を収集しているか、中国がどのようにして日本の学術界やビジネス界に浸透しているかという対中インテリジェンスの知識が要る。また、最先端技術が未来の戦場をどのように変えるかという軍事技術的知識や、台湾有事がどのように戦われるかという軍事的知識なども求められる。

その上で、日本として何をなすべきかを考えねばならない。中国への機微技術の流出阻止、逆に中国の経済的圧力に耐え得るサプライチェーンの強靱(きょうじん)化、日本の重要インフラシステムの防護、そして、日本の安保関連技術の育成などがその柱となる。その全てを総覧できる人材は限られている。

本書は、著者が自らの政策形成において練り上げた戦略と重厚に蓄積された知識をコンパクトにまとめた良書である。政府が今日何を考えて経済安保政策を進めようとしているかがよく分かる。経済安保に関心のあるビジネスパーソン、経済官庁の俊英たちはもとより多くの日本人に、手に取ってほしいと願う。(中央公論新社・2200円)

評・兼原信克(元内閣官房副長官補・同志社大特別客員教授)


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