狙いは万博客2800万人 大阪湾・瀬戸内クルーズ大作戦

    2025年大阪・関西万博に向けて、大阪湾や瀬戸内海でクルーズ船を使ったビジネス拡大や観光振興に向けた動きが活発化している。新型コロナウイルスの感染拡大前は世界的にクルーズ人気が高まっていたことから、関西の海運会社や経済団体は訪日外国人客の回復を見越し、船を会議場として使うプランや広域の周遊ルートを提案する。事業促進には府県をまたいだ連携や安全性の確保がカギとなりそうだ。

    洋上で会議、気分転換も

    青空が広がった5月18日、神戸ベイクルーズ(神戸市)の真っ赤な和式豪華客船「御座船安宅(ござぶねあたけ)丸」が神戸港(同市)を出港した。大阪府内の自治体の首長をはじめとする乗船者は、大阪湾や神戸の街並みなどの風景を15分ほど楽しんだ後、船内で開かれた万博がテーマの「自治体EXPOフォーラム」で議論を交わした。

    大規模な国際会議や展示会を行うMICE(マイス)を船上で実施するための実証実験で、一般社団法人夢洲(ゆめしま)新産業・都市創造機構(大阪市)が主催した。マイスは国内外から多くの参加者を見込めて経済波及効果が大きいことから、大阪府市が万博会場の夢洲に誘致を進めているIR(統合型リゾート施設)でも中核として期待されている。

    実証実験は、波で船が揺れても会議が可能かなどを参加者に体感してもらう意図で実施された。会議室とは違って航行に合わせて周囲の景色が移り変わるため、気分転換になることなどをアピール。この日は穏やかな天候で船の揺れも少なく、参加者からは「食事も楽しめ、快適だった」との意見が聞かれた。

    神戸ベイクルーズが所属する両備グループの関係者は「万博開催時は海外から観光客だけでなく、多くのビジネス客が訪れる。会議を開く施設にも限りがあるため、船を有効に使えないか考えた」と話す。

    万博に向けては、水都・大阪の水上交通を利用したアクセスにも注目が集まっており、神戸ベイクルーズや大阪水上バス(大阪市)などが大阪市と神戸市をつなぐ航路の社会実験を始めている。

    世界で評価される「多島美」

    こうした中、関西経済同友会は5月、大阪湾岸と瀬戸内海の各地をつなぐクルーズ船の運航を中心にした広域観光の提言を発表した。コロナ禍収束後の訪日客回復を見据え、関西の観光ルートの多様化を図ることが狙いだ。

    提言では万博会場の夢洲や関西国際空港、淡路島(兵庫県)などと各観光拠点を結ぶクルーズ船の周遊ルートを提案。想定するモデルコースとして、大阪湾一周▽神戸港から兵庫県の姫路港や家島諸島をめぐり岡山県の日生(ひなせ)港へ向かうコース▽姫路港から香川県の小豆島をめぐり高松港へ向かうコース▽瀬戸内国際芸術祭(瀬戸内海の島々を中心に3年に1度開かれる芸術祭)とのコラボレーション-などが示された。

    提言の背景には、コロナ感染拡大前の関西での観光施策の反省がある。令和元年には関空から入国した訪日客が過去最高の約838万人を記録しながら、観光振興策について圏域を越えた連携が不十分だったため、訪日客が関空から京都を経由し、東京へと流出する現象が起きていた。

    同友会は、大阪湾での海上交通の実現に向けた動きが盛んになっていることに加え、大阪湾と神戸港のクルーズ船入港数にも注目。特に大阪港はクルーズ船の寄港数が、平成26年の13隻からコロナ禍前の令和元年には約5倍の62隻まで伸びていたことから、今後クルーズ需要がさらに伸びると考えたという。

    提言をまとめた同友会広域観光委員会の難波正人委員長は「世界的に評価の高い『多島美(たとうび)』の風景が広がる瀬戸内クルーズの機運高まりが期待できる。広域での観光振興を目指したい」と力を込める。

    知床事故受け安全管理徹底

    実現に向けては課題もある。関西圏と瀬戸内をつなぐネットワークをつくるには圏域を越えた連携が欠かせないが、陸上交通の発達により海運事業が衰退している地域も少なくない。

    各事業者が船やサービスなどを個別に所有・運営していることから、それらの共通化を図る必要があり、関係する交通事業者や漁業協同組合との連携も不可欠だ。また、船舶安全法の規定により、船舶は構造や性能によって航行できる水域が定められている。航行区域をめぐっては、平成27年に兵庫県が国土交通省に構造改革特区による規制緩和を提案している。

    さらに、北海道・知床半島沖の観光船沈没事故を受け、安全管理の重要性が改めて認識された。同友会の提言では、瀬戸内クルーズの実現に向けた協議会などを発足させ、これらの課題や規制緩和について検討、解決していくことの重要性を明記している。

    万博に向けてのクルーズ船を使った観光振興の動きについて、日本総合研究所の若林厚仁・関西経済研究センター長は「万博会場の夢洲は海に面しており、そのメリットを最大限活用しようということだ。万博期間中に約2800万人を見込む来場者を、夢洲を起点に大阪湾・瀬戸内海にシフトさせようという取り組みは評価できる」とする。

    その上で「初めて日本を訪れる海外客よりも、リピーター客に対して新たな観光ルートを示すことの意味が大きい。瀬戸内国際芸術祭は欧州で人気が高く、関西が弱かった欧州からの観光客を呼び込めるコンテンツにもできるのではないか」と強調している。(井上浩平)


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