EV化 動く関西企業

    (上)エンジン消えるかも‥揺れる町工場「すぐには変われない」

    脱炭素で注目を浴びる電気自動車(EV)。各国でEV化を進める目標が掲げられ、日産自動車の新型軽EV(電気自動車)「サクラ」の受注が好調など自動車業界での存在感を増しつつある。一方で、エンジンが不要になるなど、従来のガソリン車に比べ製造に必要な部品が減るため、部品を納入する中小を中心とした関西のモノづくり企業も事業の見直しを迫られるケースが出てきた。

    大手自動車メーカー向けに、エンジン部品を生産する大和精工(大阪府東大阪市)
    大手自動車メーカー向けに、エンジン部品を生産する大和精工(大阪府東大阪市)

    消えたエンジン開発

    「もし事業を続けていたら資金繰りが行き詰まり、従業員の退職金も払えなくなっていた」

    昨年4月、自己破産した大阪技研(大阪府松原市)。社長だった大出竜三さん(70)は振り返る。

    自動車エンジン用アルミニウム鋳造機の設計・開発を手がけてきた。後の得意先となるホンダの社名「本田技研工業」への憧れを込めた社名を掲げ、昭和39年の創業から半世紀以上。廃業を後押ししたのは、EVシフトによるホンダの次モデル開発計画の中断だった。

    ただ、大出さんは「会社を閉じたことに後悔はない」と言い切る。エンジンの先行きに不安を感じていたからだ。

    社員は10数人。ホンダをはじめとした国内外の大手メーカーのエンジン開発に関わっていた。最初の転機は平成27年、欧州で発覚したディーゼルエンジンの排ガス不正。エンジンの受注が減り始めた。

    令和2年にはホンダから受注を予定していた2輪車エンジンの開発計画が延期される。翌年には「ストップしてなくなりそうだ」と通告があった。コロナ禍も追い打ちをかけていた。大出さんは「これでは4輪も危ない。感染が収束しても、エンジンには先がない」と感じたという。銀行から融資を受け事業を続ける選択肢もあったが、廃業を決断した。

    その直後、ホンダが2040年までにエンジン車の販売を中止すると決定。国内メーカーの先陣を切った方針の大転換だった。ホンダは今後、EVなど電動車開発に集中することになる。

    大出さんは、ホンダの決断を前向きにとらえる。「大手がはっきりと方針を決めることで部品メーカーは決断がしやすくなる」と話す。

    新規事業を模索

    2035年に世界のEV新車販売は、20年比約11倍の2400万台以上(富士経済)との予測もある。EVはガソリン車より3~4割程度部品が少なく、特にエンジンやトランスミッションなど複雑な機構を中心に部品が減る。帝国データバンクの調査では、EVシフトでマイナスの影響を受けるとした1次部品メーカーは4割近くに上った。

    ただ、部品メーカーもただちにEV化へかじを切るべきかというと、そう簡単ではない。ガソリン車は減少しながらも需要は根強くEVシフトのタイミングを難しくしているという。

    「『EVが出てくる』という話は10年前からあった。しかしわれわれの仕事は『今作っている部品』を搭載した車の売り上げに左右される。忙しさにまぎれているうちに時間がたってしまった」。自動車部品製造業、大和精工(大阪府東大阪市)の池田圭宏社長(62)は話す。

    年間売り上げ約160億円、社員数約400人の中堅企業。売り上げの半分は自動車のエンジン部品だ。4割が農業・建設機械部品の製造や組立、残り1割は業務用炊飯器など飲食店向け厨房(ちゅうぼう)機械となっている。

    自動車部品は農機に比べると、納入先メーカーの動向に左右されやすいという。同社は大手自動車メーカーから、エンジンの吸排気バルブを作動させる動弁部品を受注。搭載された車種は平成29年以降、順調に販売が伸びていた。

    しかし、コロナ禍で一転して不振に。生産拡大を見込み、令和2年に導入した生産設備はまだ稼働できていない。今年に入りめどは立ってきたが、この間にもEV化は進展し「自動車エンジンの新規開発はなくなってきている状況」(池田社長)となった。

    同社は新たな収益の柱として、厨房機械部門を強化している。昨年にはM&A(企業の合併・買収)支援のM&Aサクシード(東京)の仲介で、チャーシューなどの調理に使う「低温調理器」事業を静岡県内のメーカーから買い取った。「ニッチなところからラインアップを増やす」(池田社長)との考えだ。

    また自動車部品で培った技術をもとに新規事業も模索。航空機メーカーが取引先を選定する際に行うエンジン部品加工のトライアル(試作)に挑み、審査に合格した。池田社長は「ただちに自動車部品に代わるものを作れるわけではない。しかし企業としての実力・ブランドを高めていかなくては」と気を引き締める。

    「転換」は痛手も

    EV化の影響は大手企業にも及ぶ。自動車部品製造のマレリ(さいたま市)は3月、私的整理の一種である「事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)」を申請した。自動車の販売不振に加え、EVシフトに伴う投資が経営を圧迫した。

    帝国データバンクは「技術のある企業でも、このままでは対応できなくなるケースも出てくる。ただ『業態転換』は企業にとって大きな痛手で、簡単に進むものではない」と指摘する。

    日本で自動車に関連する産業で働く人は550万人とされる。日本自動車工業会は、国内の自動車販売がすべてEVになった場合、最大で100万人の雇用が失われると試算。先行きが見通しにくい状況が続く。(織田淳嗣)


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