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ウクライナ侵略4カ月 分断と依存、交錯する世界

ロシアのウクライナ侵略が長期化する中、自由や民主主義の価値観を共有する欧米諸国や日本はロシアとの関係切り離しに動く。しかし、エネルギーや食料を依存する一部の欧州諸国や途上国には、ロシアを完全には排除できない事情がある。一方で、中国とインドはそれぞれの思惑から露産原油の買い支えに走る。2月の開戦から24日で4カ月。世界は分断と依存が交錯する複雑な時代に入りつつある。

露、ガスでEU揺さぶり

欧州連合(EU)は対ロシア経済制裁として、石炭、石油の禁輸措置を決め、エネルギー面でのロシアとのデカップリング(切り離し)が徐々に進む。これに対し、ロシアは天然ガス供給を削減し、EU側に揺さぶりをかけている。

ロシアのガス企業ガスプロムは今月、ドイツ向けのガス供給削減を発表した。14日には、パイプライン「ノルドストリーム」の設備の「修理の遅れ」を理由に、供給量を4割減らすと通告した。15日にもさらなる削減を伝え、ハーベック独経済・気候保護相は「不安をあおり、価格を上げようとする策略」と批判した。フランスも17日、ガス企業が「ドイツ経由の供給が止まった」と発表。対策としてスペインからの液化天然ガス(LNG)輸入を増やしているという。

プーチン露大統領は3月、「非友好国」に対し、ガス代金を露通貨ルーブルで支払うよう要求。「ルーブルでの支払いに応じない」として、ポーランドやブルガリア、オランダ、デンマーク、フィンランドに供給削減や停止を通告した。

ドイツやイタリアには、ユーロ払いでも可能な決済手続きを容認してきたが、独仏伊の3首脳が今月16日に侵攻後、ウクライナを初めて訪問したのと前後して、締め付けに出た。

EUはウクライナ侵攻前まで、天然ガスと石炭の輸入の4割、石油の4分の1をロシアに依存してきた。今は露産化石燃料からの脱却を急いでいる。石炭については8月に輸入を停止。石油は、パイプライン経由分を例外として年末までに輸入を停止する方針を決めた。ただ、ガスの禁輸は見送っている。

フィンランドの研究機関「エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)」によると、ウクライナ侵攻後、ロシアがEUから得た化石燃料収入は約615億ユーロ(約8兆8千億円)。ウクライナは「ロシアに戦争の軍資金を与えるな」として、EUに露産エネルギーの全面禁輸を求めている。(パリ 三井美奈)

露原油、中印が買い支え

中国とインドがロシア産原油輸入を拡大している。米国やEUが輸入禁止を打ち出す中、米国との長期的な対抗を視野に入れる中国と、ロシアに武器を依存するインドがそれぞれ買い支えている形で、制裁の実効性低下につながっている。

中国メディアは21日、中国の5月の原油輸入量が前年同月比11・9%増の4582万トンだったとの税関総署の統計を伝えた。国別では、ロシアが55%増の842万トンと急増し、サウジアラビアを抜き中国最大の原油供給国になった。香港メディアは、中国の大手国有企業が「最近買い入れを強めた」と指摘する。

インドは保有する武器の6割がロシアまたは旧ソ連製とされる。フィンランドの研究機関「エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)」によると、インドの露産原油輸入量は4月以降、前年同期比で20倍近くに増加。現時点でロシアの輸出量のほぼ2割を占める。露産原油を自国で精製した製品を米欧に輸出しているとされ、CREAは「インドが制裁の抜け道になっている」と指摘する。(北京 三塚聖平)

迫る食料危機…長期化の様相

ロシアのウクライナ侵略で両国の農産物輸出が停滞し、世界規模の食料危機が現実味を増している。両国は世界で取引される小麦の3割、ヒマワリ油の7割近くを輸出しており、双方が輸出する農産物はカロリー換算で世界の食料貿易の12%を占める。

食料価格急騰でインフレが加速し、インドネシアやペルーでは反政府デモが発生、パキスタンやスリランカでは首相が退任に追い込まれる一因となった。インドは小麦の輸出を停止、インドネシアもパーム油の輸出を一時停止するなど「保護主義」も広がる。食料危機は少なくとも2024年まで続き、各地で社会不安が高まるとの予測がある。

露軍はウクライナで鉄道や橋を攻撃して輸送網を破壊し、輸出を担う黒海沿岸の南部オデッサ港を封鎖している。ウクライナの穀物輸出を阻んで経済に打撃を与え、実効支配を強化する狙いで、同国で盗んだ穀物を海外で売っているとの報道もある。

ロシアはウクライナがオデッサ近海に敷設した機雷が輸出の障害になっているとし、同国に除去を要求している。国連やトルコは黒海で安全な航路を設置するため両国と協議を進める意向だ。ただ、ウクライナは上陸作戦が容易になる機雷除去には消極的で、自国抜きで議論が進むことに警戒を強めている。

ロシアは制裁で輸出が滞ったため価格が上昇したとし、食料危機の責任は米欧にあると主張。8日にラブロフ露外相と会談したトルコのチャブシオール外相は、制裁は解除されるのが望ましいと述べてロシアに理解を示した。

同様の態度を取る国は少なくない。アフリカ連合(AU)の議長国セネガルのサル大統領は3日にプーチン露大統領と会談し、「危機は対露制裁が引き起こした面もある」として制裁解除に賛意を示した。アフリカは域内小麦需要の4割以上をロシアとウクライナに依存している。

農業大国ブラジルも制裁に加わらず中立の立場だ。ロシアは食料の栽培に使われるカリウム系肥料の世界第2の輸出国で、3位は欧米が制裁を科しているベラルーシだ。将来の農業生産減少を恐れる姿勢が透ける。

米シンクタンク、国際食糧政策研究所の専門家は英紙フィナンシャル・タイムズに、「(誰が戦争で非難されるべきかは)気にしない。ただ小麦が欲しいだけ」という空気が広がっていると指摘した。

ロシアもそれを熟知している。アブラムチェンコ露副首相は16日、セルビアやトルコ、イスラエル、エジプトなど11カ国への食料供給を保証すると述べた。いずれも制裁には加わっていない。まさに食料を対露批判の封じ込めに使っている格好だ。

「民主主義的な政府と一定の報道の自由がある国では、実質的に飢(き)饉(きん)は起きていない」。ノーベル経済学賞を受賞したインドのアマルティア・セン氏はかつてこう論じた。いわば、すべての飢饉は人為的に起きるという考えだ。民主主義を掲げる欧米や日本は、国際法を無視して侵略を続けるロシアを打ち負かせるのか。26~28日にドイツで開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)がその試金石となる。(カイロ 佐藤貴生)



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