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「お金を稼ぐことは、世の中を善くすること」アメリカから巨大IT企業が次々と生まれた根本原因

PRESIDENT Online

■映画『卒業白書』の物質的な豊かさを夢見る若者たち

彼らによってレーガンの経済政策──市場への規制を最小限にすることこそがアメリカ経済のダイナミズムをもたらすという考え方は支持され、今日へとつながっているのです。

もう一つの作品、トム・クルーズ主演の『卒業白書』はいわゆる青春コメディですが、バド・フォックスのようなヤッピーたちの若き日を描いたものと見ることができます。

主人公ジョエルは、成績はいまいちですが、一流大学への進学を夢見る高校3年生です。彼は「未来の起業家研究」の授業を取っており、資本主義社会での成功を目指す野心を持っています。

両親が旅行に出かけている間に留守番をしていた彼は、友達の誘いに乗ってラナという娼婦を家に呼び入れます。それがきっかけでラナと客引きのグイドとの間のトラブルに巻き込まれてしまい、父のポルシェに勝手に乗って逃げることになります。そのカーチェイスの末に彼が言うセリフが「ポルシェに代わるものなし(Porsche. There is no substitute.)」というものでした。

これはアメリカ人ならみんな知っていますが、ポルシェのCMのコピーなのです。こうしたセリフもまた彼らの世代の物質主義への称賛の表われと見ることができるでしょう。

『卒業白書』の結末はコミカルで皮肉の利いたものとなっています。ジョエルは、親が留守中の家を「売春パーティ」の会場としてしまいます。その客の中に名門プリンストン大学の面接官がいて、ジョエルの才覚にほれ込み、そのことで彼はプリンストンへの切符を手にするのです。

私にはこれが、物質主義的な直感や才覚が人生の成功に直結するということを遠まわしに揶揄しているように思えます。

■自分の身は自分で守らなければならない

アンチ・ヒーローとしてのゴードン・ゲッコー──アンダーセン

『ウォール街』は、80年代アメリカの新しい価値観の変化を完璧に捉えた映画として素晴らしいものです。

1930年代からのニューディール政策によって福祉国家を築いてきたアメリカは巨額の財政赤字に悩んでいました。レーガンの革命はそれをひっくり返し、小さな政府へと方針転換して、自分の身は自分で守らなければならない、すなわち個人がお金を稼ぐことこそ重要であるというパラダイムシフトを起こしたのです。

主人公バド・フォックスに投資家としての振舞いを教え、そしてインサイダー取引へと引きずり込むゴードン・ゲッコーはあくまで「悪役」です。

しかし、彼はアンチ・ヒーローとして多くの観客の目に「かっこいい」ものとして映りました。実際、この映画によってそれまでの働き方は陳腐化して時代遅れなものだ、これからは投資家の時代だという見方が広まることになりました。

彼の行ないはもちろん唾棄すべきものですが「悪人」ではないという感覚は、当時の多くの人が持っていたと思います。

マドンナは『マテリアル・ガール』において、「物質の世界(material world)」に生きる私は、お金を持っている男だけが欲しいんだと歌いますが、それもまたこの頃の時世を表わした皮肉です。

■欲は人間の推進力…80年代が映し出すアメリカの本質

ゲッコーは「欲望は善だ」と言います。欲は人間の推進力であり、「株式会社USAを立て直す力」だと言うのです。これはある意味で自由市場における真実です。

そして、このことはアメリカの本質でもあります。アメリカ人は、私たちが他のどの国の人たちよりも優れている、ということを無邪気に信じています。私たちは道徳的であり、本当にいいことをしたいだけなんだ、というわけです。

しかし当たり前ですが、誰にとっての正義も、他のすべての人に当てはまる普遍的なものでは決してありえません。どの国でも、良い動機と悪い動機はないまぜになったものです。しかし、アメリカは常に自分たちには良い動機しかないんだと自らに言い聞かせて、それを信じているのです。

この映画が、小さなアート系のプロダクションから生まれたものではないことは非常に示唆的です。配給元である大手の映画会社20世紀フォックスは、この映画が発表される少し前にメディア王ルパート・マードック率いるニューズ・コーポレーションに買収されていたのですから。

この価値観は90年代、そして2000年代へと持ち越されることになります。21世紀のデジタル革命で面白いのは、ジャック・ドーシー(Twitter)やマーク・ザッカーバーグ(Facebook/Meta)ら起業家たちの持つユートピア主義的な思想です。彼らにとっては、起業してお金を稼ぐことと、世の中を善くすることは無邪気な形でつながっています。その結果生まれたのが、プラットフォームという〈帝国〉でした。

そうしたアメリカの資本主義社会が行き着く先は現在進行形で分かりませんが、その出発点は間違いなくここにあるのです。

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丸山 俊一(まるやま・しゅんいち)

NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー

NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー、東京藝術大学客員教授。1962年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「ニッポンのジレンマ」「ニッポン戦後サブカルチャー史」ほか数多くの教養エンターテインメント、ドキュメントを企画開発。現在も「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」「世界サブカルチャー史~欲望の系譜~」などの「欲望」シリーズのほか、「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」など様々なジャンルの異色企画をプロデュースし続ける。著書に『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』(いずれも大和書房)『結論は出さなくていい』(光文社新書)などがある。<br>

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(NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー 丸山 俊一、NHK「世界サブカルチャー史」制作班)


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