新聞広告を自動配置 「AI割付」で天候に即した商品提示も

    新聞に掲載される広告。その配置などに人工知能(AI)を活用したシステムが稼働する
    新聞に掲載される広告。その配置などに人工知能(AI)を活用したシステムが稼働する

    産経新聞社と電通グループのデータアーティスト(東京)は、人工知能(AI)を利用して新聞広告を紙面に配置する「AI割付」のシステムを共同開発した。デジタル技術の活用により既存業務を変革する「DX」の一例として、媒体の価値を高めることが期待される。

    新聞広告はこれまで、同一業種や同一製品の広告が重ならないよう、担当者が掲載日や掲載面を細かく調整してきた。しかし、この作業をAIが行うことにより、迅速で効率的な割り振りが可能となる。移行期間を経て、今夏にも実装する。

    読者ニーズに応える

    新聞の中面や記事の周りに掲載される新聞広告。食品や化粧品、書籍などの商品の宣伝や、選挙の投票を呼び掛ける省庁の広告などさまざまな内容がある。この新聞広告をめぐり、AIを使って自動的に紙面に広告を配置する「AI割付」のシステムが稼働する。これまで作業にかかっていた人手や時間の短縮につながるだけでなく、天候や社会事象に即したきめ細かな広告の展開で、読者ニーズに応えることも期待されている。

    新聞広告は広告主から申し込みを受けた後、内容などの審査を経て、広告主の希望を参考にしながら掲載される。同業他社や類似商品を同じ紙面に掲載したり、同一成分を使った他社の商品を同じ日に紹介したりするのを避けるよう求める広告主もおり、紙面への配置を機械的に行うのは難しい。

    また、「プロ野球の優勝チームが決まったら」「日本選手が五輪でメダルを取ったら」など、世の中の事象に合わせて掲載する広告もある。割り付けが終わった後で結果が出れば再調整が必要となり、担当者の作業は煩雑になる。

    さまざまなルール

    こうした現状を変えようと、AIの活用による社会課題解決を目指す「データアーティスト」と産経新聞社が令和2年夏から始めたのが、AIを利用して新聞広告を自動で紙面に配置する「AI割付プロジェクト」だ。同業者は避ける、同一成分の商品は避ける、などさまざまなルールをAIの割り付け条件に組み込み、自動的に広告を配置することを目指す。

    開発にかかわったデータアーティストAIソリューション事業部の鈴木初実事業部長は「視聴率予測に基づき、視聴者に合わせたCMを流すシステムをテレビ局と作ったことはあったが、新聞は初めてだった」と振り返る。「カラー印刷のページが日によって違ったり、広告を掲載するスペースが増えたり減ったりする新聞独自のルールに、当初は戸惑った」という。

    そうした一つ一つのルールを数式化しAIに学習させることで、約2年かけて人力とほぼ同じ割り付けが可能となった。

    梅雨明けにアイス

    「AI割付」は、読者にとっても有意義な広告が見られる可能性を持つ。テレビなどでは、雨の日には通常の洗剤でなく部屋干し用洗剤のCMを流すなど、天候を元に宣伝する商品を変える試みもなされている。新聞でも、天気や気温などの気象データを取り込むことで、梅雨明けのタイミングに合わせてアイスクリームの広告を出すなど、より最適な広告を出せるようになるかもしれない。食料の需要と供給のバランスをデータ化して取り込み、余っている食料の広告が出るようにすれば、フードロスなどの社会課題の解決にもつながる。

    「AIの文章読解力は上がっており、記事に出てくる言葉から最適な広告を配置できるようになる可能性もある」と鈴木さん。「AI割付」は今後、新聞広告の可能性を広げてくれそうだ。

    ネットでは「個人」対象に

    幅広い年齢層に向けて作られている新聞は、読んでいる個人に合わせた広告を掲載するのが難しいとされている。しかし、インターネットでは、サイトの閲覧履歴など個人の行動に合わせて広告が表示される仕組みが一般的になっている。同じサイトを見ても、表示される広告が人によって異なるのはそのためだ。

    例えば、検索した用語や閲覧したサイトから、利用者の関心があるものや傾向を予測して広告を表示したり、検索した店舗の場所などから地域を絞って広告を表示したりする手法が採られる。

    一方、こうした個人の好みや行動に合わせた広告を不快に思う利用者もいる。4月に施行された改正個人情報保護法では、閲覧履歴などの情報を個人情報と組み合わせて利用する場合は本人の同意が必要となるなど、規制が強化された。


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