シャア専用もスト2も ナイアンティック「高品質」と「手軽」で広げるARの世界

    「ポケモンGO(ポケGO)」で知られる米ゲーム企業のナイアンティックが、スマートフォン向けのAR(拡張現実)技術をさらに進歩させている。現実空間と仮想現実をより正確に一体化させる「ビジュアル・ポジショニング・システム(VPS)」を他の開発社にも使えるようにする一方で、専用のアプリを使わないで手軽にARコンテンツを楽しめるようにする仕組みも提供するという。合併した企業のテクノロジーが飲食大手に活用される事例が続いていることもあり、高品質なARはアプリで開発し、シンプルなものはウェブブラウザで提供するという動きが加速しそうだ。

    周囲の空間をシステムが理解

    ナイアンティックの河合敬一氏=24日、東京・原宿
    ナイアンティックの河合敬一氏=24日、東京・原宿

    「ナイアンティックが長年取り組んできた、ARの新しい地平を開く技術です。バーチャルの世界のものがリアルの世界にぴたりと重なり合うのです」

    東京・原宿で行われた日本初開催の開発者会議「Lightship Summit Tokyo 2022」で最高プロダクト責任者の河合敬一氏は24日、VPSの特徴についてこう説明した。

    従来のAR技術は、スマホのカメラを通して見る映像に文字やアニメーションを重ね合わせるだけのものが一般的だった。VPSを活用するメリットは「目の前に机と椅子がある」などの周囲の環境をシステムが“理解”してくれることだ。例えば、人物の銅像にスマホのカメラを向けると、3Dアニメーションの鳥が飛んできて銅像の肩にとまる、といった映像をリアルタイムで見ることも可能になる。

    同日、会場ではVPSの活用例のデモンストレーションが行われた。集英社はスマホを公衆電話に向けると人気漫画「ワンピース」に登場するキャラクター、「トニートニー・チョッパー」が画面上に現れて、チョッパーが歩いて行く方向にスマホを動かすと巨大な船が出現するというアプリを出展した。ソニーはスマホとワイヤレスイヤホンと連携して、銅像の周辺にいる見えない「妖精」を音を頼りに捕まえるというコンテンツで来場者を驚かせた。

    こうしたARコンテンツを作るには「この場所には何があり、この位置からはどう見えているか」(河合氏)を把握するために、AR用の3次元地図が必要になる。しかし、車から撮影してたくさんの情報を収集しようとすると車道沿いのものしかカバーできないという難点があった。同社はポケGOや「Ingress(イングレス)」などの位置情報ゲームのユーザーに、生活圏にある銅像や彫刻の周りをぐるりと歩いて撮影したデータを投稿してもらうことなどでこの課題に取り組んだ。同社スタッフたちが独自に収集したものと合わせて世界で4万カ所以上のデータが集まったという。

    特に3次元地図のデータが集中しているのがサンフランシスコなどの米国の4都市、英国のロンドン、日本の東京だ。年内には100以上の都市が対象になり、多くの国で高品質のARコンテンツを開発できるようになる。また、国内では24日の時点で、東京のほか京都、名古屋、大阪の一部でVPSが提供されており、年内を目処に三大都市圏と政令指定都市の主要部にエリアを拡大する。

    他の企業に技術を提供するかたわらで、ナイアンティックも不思議なペットを育成する開発中の新作ゲーム「Peridot(ペリドット)」に持てる技術を注ぎ込んでいる。次世代のARゲームの競争は、より濃密なAR体験を提供できるかが鍵になりそうだ。

    手軽なAR、日本でも

    一方、「スナックを食べるような感覚で楽しめる敷居が低いAR」(河合氏)の需要も大きい。企業が売り上げやブランド価値の向上を見込んでキャンペーン用にARコンテンツを製作する場合、商品の購入者がわざわざ専用アプリをダウンロードして体験するとは限らないからだ。ゲームのようにユーザーのモチベーションが高いARコンテンツはアプリで、一時的に楽しんでもらうのが狙いのARコンテンツはウェブブラウザでお手軽に遊んでもらうという“使い分け”が求められていた。

    モチベーションの高いユーザーを満足させる術について熟知しているナイアンティックは3月、スマホのブラウザでARコンテンツを動かす技術に長けた8th Wall(エイスウォール)との合併を発表。ピザハットの箱にスマホをかざすと「パックマン」(バンダイナムコ)で遊べる、バーガーキングのワッパー(ハンバーガー)の包み紙の上でラッパーが歌い踊る、といった海外のユニークなARキャンペーンを技術面で支えた「ウェブAR」のリーディングカンパニーだ。

    実は、日本の飲食業界においても、既に大手企業が8th Wallの技術を活用している。27日からサントリーが実施している「飲むゲーセン」キャンペーンでは、炭酸水の「THE STRONG 天然水スパークリング」と対戦型格闘ゲームの火付け役「ストリートファイター2」(カプコン)がコラボした。スマホのキャンペーンサイトからカメラを起動してペットボトルに向けると、現実の風景を背景にして、懐かしのミニゲームを遊べるという仕掛けだ。

    ナイアンティック広報担当者によると、22日から日本マクドナルドがアニメ「機動戦士ガンダム」の人気キャラ、「シャア・アズナブル」とコラボしている「シャア専用マクドナルド」キャンペーンでも8th Wallの技術が使われているという。こちらはARを体験するためにマクドナルド公式アプリが必要だが、入店前に注文と支払いを済ませたり、クーポンをもらったりするために公式アプリを使っている人もいるため、新規でダウンロードを促す場合と比べるとAR体験までのハードルは低いと言えるだろう。

    ARとゲーム・アニメコンテンツの相性の良さはポケGOの成功で証明済み。さまざまな世代から共感を集めるIP(知的財産)が豊富な日本では、さらにARが浸透していく可能性がある。


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