レクサスのカラーデザイナーに聞く(前編) 「お客様の期待を超える色を」「レクサスブランドを大切に」
近頃、クルマのカラーが存在感を増している。白や黒といった昔からの定番色はもちろん、最近ではピンクやオレンジ、蛍光色といった個性的なカラーも当たり前に見かけるようになってきた。カラーはブランドや商品イメージを効果的に映し出すことのできる重要なツールであり、塗料や塗装技術の進歩とともに、常に新しい色が世に送り出されている。今回、日本の高級車ブランド「レクサス」のカラーデザイナーを訪ね、色に対する考え方や新色が生まれるまでの創作過程、トヨタ車との塗装の違いや今後のビジョンを聞いた。(取材・写真 大竹信生)
愛知県豊田市にあるトヨタ自動車本社ビルの脇にある敷地に入り、いくつかのセキュリティゲートを通り抜けると、レクサスのデザインスタジオに通された。ここにメディアが入ることは滅多にないという。奥行き30メートルはあろうかという縦長の部屋は清潔感たっぷりで、壁には塗板と呼ばれるカラーサンプルのパネルが何枚も並べてある。反対側の壁は一面ガラス張り。窓の外に目をやると3台のレクサス車がそれぞれ転車台の上に乗せてある。モデルは「RC F」「RC」「IS」だ。ここで車両を回転させながらカラーの表情などを確認するのだという。今回インタビューするのは、デザイン開発部のカラーデザイナー、宍戸恵子さんと、同部グループ長の田中彰さんの2人。車両の撮影をひと通り終えるとスタジオに戻り、1時間20分に及ぶインタビューが始まった。
--カラーデザイナーから見る「カラー」の役割とは。クルマにとってどんな存在ですか。
宍戸さん「カラーは1色ではなくラインアップなので、お客様自身の個性と近いものを見出せるようなパーソナライズ性があると思います。一方、クルマとしては、打ち出したいイメージの訴求色を開発してクルマの個性をアピールする役割もあります。役割抜きで考えると、パッと見て『キレイだな』とか感動を与えるものがクルマにとってのカラーだと思います。理屈ではなく、キレイだなと思うものに心が動くと思っています」
--クルマのコンセプトを表すカラーはどのように決めるのですか。カラーデザイナーが主導で決めるのですか。
宍戸さん「何色かクルマの頭出しの導入車種があるのですが、そのクルマのコンセプトを打ち出すために何色か提案する感じです。カラーラインアップは、内外のデザイナーと同時並行で決めていきます。あとはチーフデザイナーが提案する車両コンセプトも含めてカラーで企画を出して、それを内外のチーフデザイナーとやり取りして育てていくイメージです」
--カラーのインスピレーションはどこから得ていますか。
宍戸さん「人の手で作りこまれたもの、工芸品みたいなものから感動をもらうケースが多いです。例えば陶器の釉薬(ゆうやく)が焼けてトロっと溶けた様子とか、人の手と火力のような自然の力が融合して生まれたものに感動します。天然の鉱物もすごく好きですね。以前、『ファイアーアゲート』という茶色い石に感動して、同じ名前の色を作ったことがあります。光を当てると虹色にキラキラと輝く光彩の性質があるので、それをヒントに、光が当たった粒子の部分だけマルチカラーに光る茶色を作りました」
--感動した色をどうやって同僚に伝えるのですか。
宍戸さん「素直に美的感動を持ったものは理屈なしに共有できると感じています。いいなと思うものを持ち寄ると、みんな同じようなことを考えていたり感動してくれます。それを他部署の人に伝えるには、もう少し説明やデータが必要だったりしますね」
--データとは。
宍戸さん「例えばブラウンの外板色をレクサスに入れたいときは、ブラウンが受け入れられる素地が市場にあるということを説明します。『家電やインテリアでも徐々にそういう兆しがありますよ』、『10年前と今の生産実績でブラウンが増えていますよ』などとロジカルに説明することが必要になります」
--逆に奇抜な色を投入したいときはどうするのですか。
宍戸さん「そういうときもあります。逆に市場にないからこそ、レクサスとして『お客様の期待を上回るアメージング(驚きと感動)なもの』を作ることも大切です。実際に色を作って実車サイズに塗装して、この大きさでこの色なら人々に感動を与えるということをここで検討したりします」
田中さん「こういうデータを使うこともあります。これは『ヒートブルーコントラストレイヤリング』という色を示すパネルです。このグラデーションは、光の当たる角度が変わると色がどれぐらい違って見えるのかを光学的に測色したものです。これを見ると、一番明るい所でも“青さ”がしっかりと発揮できていますよね。逆に、陰の部分にも青の成分が残っています。我々はこれを『ハイライトの領域』と呼んでいます。古いカラーと比較したときに、以前のテクノロジーでは狭い範囲でしか青さを表現できませんでしたが、『今なら広い範囲で青色を表現できるので、もっと美しいはずです。それを可能にするためには、5層くらいに塗り分けないと達成できません』などとアピールできます」
塗膜構成を簡単に説明すると、『ヒートブルー』の場合は6層のコーティングを施している。まず車体の下塗りとして防錆効果のある「電着層」を塗り、その次にデコボコの表面を平滑にするための「中塗り」を行う。その上に青色の「カラーベース」、透明の「クリア」、青色の入った透明の「カラークリア」、最後に透明の「トップクリア」で仕上げる、といった具合だ。
--他のメーカーのカラーには注目しますか。
宍戸さん「他社をベンチマークすることはあまりないです。(レクサスが掲げる)『唯一無二』を知るために、他に誰もやっていないことを確認するために資料は集めますが、積極的に他社を見て『だからどうしよう』という感じはないですね」
--レクサスとトヨタでカラーチームは別なんですか。トヨタからレクサスに異動することはありますか。その場合は、仕事への取り組み方や意識が変わったりするのですか。
田中さん「チームは別です。意識については、変えざるを得ない、といった方がいいかもしれないですね。高級というのもありますが、レクサスの場合は『レクサスブランド』というものを大切にしています。極端な表現をするとフラッグシップの『LS』から『CT』まで、カラーに限らずレクサスとしての共通概念があり、それに基づいて商品開発をしています。よく言われるのが、レクサスは『ブランドショップ』でトヨタは『セレクトショップ』。セレクトショップはバイヤーの価値観で商品を集めますよね。ある価値は共有しつつ、それぞれのプロダクトにいっぱい個性があるのがトヨタブランド。そこが大きく違います」
--開発中の車種に合わせてカラーを決めるのですか。それとも、次に作りたいカラーを決めて、その世界観にふさわしいフォルムを作るのですか。
宍戸さん「実は両方あります。車種がある場合は、それに合わせた色を2~3年後に向けて開発するのですが、難易度の高い色に関しては、まだ車種や形状がないうちから先行開発することもあります。ただ、プロジェクトに関しては同時に動きながらやっているので、フォルムに色を当てるというよりは、一緒に作り上げていくという感じです」
--車種によってカラーラインアップを変えるのでしょうか。また、性別や年齢層を意識しながら色を作るのでしょうか。
宍戸さん「シルバー、ホワイトパール、ブラックなどレクサスの基盤となるラインアップはあります。それとは別に、車種の個性を表現する色として、RC Fの『ヒートブルー』やRXの『グラファイトブラックガラスフレーク』といったカラーを新規開発しました。また、海外ではRXユーザーの半数が女性なので、女性向けにブラウン系のエレガントな室内色を提案しました。既存車種のフルモデルチェンジを行うときは、お客様の女性比率や年齢層など、こちらで持っているデータを活用しながら、カラー企画をしています」
--年齢層によってカラーの好みは違うんでしょうね。
宍戸さん「そうですね。レクサスとしてもユースを取りたいので、今までとは違うアプローチを提案して企画を進めたり、最近も実際にそうした経緯があるので、少し若返らせたいときにキャラクターカラーでインパクトのある色とか作ったりしますね」
--インパクトのあるキャラクターカラーとは。
宍戸さん「白、黒、シルバーなどニュートラル系以外の色ですね。RXならブラウンなどです」
【インタビュー後編】最新技術と人の力を融合 「本物に近い色を追求」 に続く
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