レクサスのカラーデザイナーに聞く(後編) 最新技術と人の力を融合 「本物に近い色を追求」
近頃、クルマのカラーが存在感を増している。白や黒といった昔からの定番色はもちろん、最近ではピンクやオレンジ、蛍光色といった個性的なカラーも当たり前に見かけるようになってきた。カラーはブランドや商品イメージを効果的に映し出すことのできる重要なツールであり、塗料や塗装技術の進歩とともに、常に新しい色が世に送り出されてきた。今回、日本の高級車ブランド「レクサス」のカラーデザイナー、宍戸恵子さんと田中彰さんを愛知県豊田市まで訪ね、色に対する考え方や新色が生まれるまでの創作過程、トヨタ車との塗装の違いや今後のビジョンを聞いた。(取材・写真 大竹信生)
--レクサスはベンツやBMWと同じ高級車ブランドですが、大衆車とのカラーの違いはどの辺にあるのですか。
宍戸さん「競合メーカーの詳しい事情が分からないので、トヨタとの比較になるのですが、クルマのベルトラインなどハイライトが走る部分は人の手で磨きを入れているんです。やっぱり塗装肌がきれいになると発色も上がるので、そういった点がトヨタとは大きく違います」
田中さん「塗装の表面品質の基準もレクサスのほうが厳しいです。塗装の表面にはデコボコがあるんですね。ひどいものは“ゆず肌”と呼んでいますが、それがいろんな箇所で起きます。トヨタだけでなく世界中の自動車メーカーは、重力のある地球上で塗っている限りは避けられない現象なのですが、それを丁寧に塗ることでデコボコが起きないようになるべくキレイに仕上げます。トヨタとレクサスでは、出荷する基準のレベルが違います」
レクサスの塗装工場では、人の手の動きをインプットしたロボットアームが、まるで職人が手塗りしているかのようにカラーを噴いているという。検査工程の最終チェックでは、塗料タンクとスプレーガンを抱えた作業員が内板部分を塗装するなど、最新技術と人の手を効果的に使い分けている。トヨタ車の品質チェックはもちろん厳しいはずだが、レクサスの場合は検査対象が約3000工程にわたるなど、高い品質を保つための基準値設定がトヨタよりさらに高いという。
--塗装の違いは素人が見ても明らかですよね。大衆車よりも厚みや深みがあるのがわかります。どのように鮮やかさと深みを同時に出しているのですか。
宍戸さん「例えば鮮やかな赤を作ろうとするとソリッド系の赤になってしまうのですが、陰影感と深みを両立するために複層工程を用いてます。中塗りの上にシルバーを塗り、さらにクリア、透明度のある赤を塗って、最後にクリアで仕上げます。先ほどの『ヒートブルー』はブルー・オン・ブルー(青の上に青を塗り重ねる)だったのですが、(赤の場合はシルバーの上にレッドを塗るように)まったく異なるニュートラル系の上に赤色を乗せることはとても難易度の高いことなんです。湿度や膜の厚さによって色が変動してしまうと、それだけで出荷品質に引っかかります。どんな条件下でもキレイに単一に塗って、コントラストをムラにさせないことが難しかったですね。新しい色を思いついても、これまでは量産化できなかったという領域です」
田中さん「リンゴ飴の赤は一定ではないですよね。当然、薄いところはリンゴの肌の色が見えていて、分厚いところは深いレッドになります。塗り方を数ミクロンでも失敗すると色の変動が起きてしまうんです。ここは本当に、工場の人たちに助けられています。こうした塗装作業は本当に大変なんです」
--テクノロジーの進化は色を表現する上で昔と大きく変わっているのでしょうね。
田中さん「顔料の進歩は日進月歩です。顔料を作っている世界中の会社がより鮮やかな赤やオレンジや黄色を一生懸命開発しているので、そこでブレークスルーが起きると、川下である我々の世界でもブレークスルーが起きます」
宍戸さん「レクサスにはソニックシリーズというシルバー系のラインアップがあるのですが、体積をぎゅっと収縮させて乱れている(メタリック)フレークを平滑に並べることで、陰影感と艶感を両立させています」
--フレークの平滑化はどうやっているのですか。圧力をかけているのですか。
田中さん「普通のシルバーはフレークの方向がバラバラなのでキラキラ感が強いんです。ソニックシリーズは2層コートなのですが、2回目に塗った塗料を強制的に収縮させることで、1回目に噴いた塗料に“吸わせる”技術を採用しています。フレークが泳げる隙間をなくすことで、強制的に並ばせるのです」
--カラーデザイナーとして個人的に強く意識していることはありますか。
宍戸さん「レクサスには『エルフィネス』というブランド・フィロソフィーがあります。その哲学をどう解釈してどのように車種に落とし込むのか、デザイナーによって違いはあると思いますが、私は“相反するものが融合する”ことがエルフィネスの肝だと思っています。最先端のテクノロジーと伝統的なものを融合させるとか、大胆だけど人に受け入れられる親和性も持たせることを意識してカラー企画を立てます」
--外装と内装は同じカラーデザイナーが担当するのですか。また、車種ごとに担当はいるのですか。
宍戸さん「内外装は一緒のデザイナーです。車種担当者という括りはしていますが、車種分の人数はいないんです。他のメーカーは知らないのですが、レクサスは実質4人のデザイナーと1人のマネージャーという体制です」
--ということは、他社のデザイナーとの交流はないのですか。
宍戸さん「年に1回、『オートカラーアウォード』という自動車の色のコンテストみたいなものがあるので、そこでお話はします。会合などで会うこともあります。また、同じカラーデザイナーということで大学の同級生が何人かいますが、組織のことを話すことがないので詳しくはないんです」
--創作が難しいカラーはありますか。
宍戸さん「先ほどお話ししましたが、(シルバーの上に赤を塗り重ねるように)ベースと表面の色差が大きい色は工場にすごく苦労を掛けているというのはありますね」
田中さん「先ほど出てきた鮮やかさと陰影感の両立のように『二律双生』のようなことを常に考えていると、結局いつも難しいところに行きがちですね」
--工場で塗装される人たちも大変とのことですが、やはりデザイナーとのせめぎあいはあるのですか。
宍戸さん「やはり戦わなくてはいけないことが多いです。仲良くやっている部分もありますし、衝突する部分もすごく多いですね」
--今後、カラーリング技術はどのように変わりそうですか。カメラで撮った写真をラッピングすることなど可能ですよね。
宍戸さん「どれを言いましょうかね(笑)。ラッピングはあり得るかと思います。塗料が未来永劫続くとも思っていません。今は塗装が主流ですが、塗装じゃない時代が来るかもしれないですし、ラッピングとかフィルムの進歩もあります。今の塗装のことをあまりネガティブには言えませんが、CO2や水の排出量も軽減しないといけないと思っているんです」
--近い将来のレクサスの方向性はどうですか。
宍戸さん「できるだけ本物に近い色を追求したいと思っています。所詮、薄い膜圧の中の塗料なんですけれど、より金属に見えるとか、ホワイトパールであれば真珠に近いとか、本物をひたすらテクノロジーで追求したいというのは根本の思想にあるので、金属質感や真珠のように自然界に存在するものを再現したいと思っています」
--カラーデザイナーとして「ここは負けないぞ」などカラーへの意気込みなどありますか。
田中さん「勝つとか負けないという部分では気負っていないですね。それよりも『こういう赤が作りたい』と思ったら、どうすればいいのか考えたり、交渉しに行ったりしています」
宍戸さん「そうですね。『競合車が何かやっているから』という競るようなイメージはないですね。まあ、愛知県のココでやっているということもありますし、いい意味で独自の路線を行っています」
--宍戸さんはもともとクルマに興味があったのですか。
宍戸さん「就職する前は、全く興味がなかったわけではなく、まあまあ詳しい方だったかなとは思うんですが、自動車メーカーに入るとは思っていなかったです。ただ、2週間ぐらい豊田市で行われたインターンシップが楽しくて。美大生たちとわいわい楽しく合宿をしていたら『あ、トヨタに入りたい』と思うようになりました。インターンの発表とかもすごく楽しんでいました。入社後はずっとレクサスを担当しています」
--田中さんはどうですか。
田中さん「クルマのデザイナーになりたいと思って入社しましたけれど、4年目ぐらいに『カラーをやりなさい』と言われてカラーデザインに異動しました。それまでは内装デザインをやっていました」
--やはり、日本メーカーという意識はあるのですか。
宍戸さん「レクサスの強みやアイデンティティーは、やはり日本メーカーということが背景にあります。日本らしさを即物的に表現することは避けるべきだと思っていますが、それを少しひねったり昇華させてグローバルにも通じるように考えることはしています。あと、これは個人的なことなのですが、夜にスポットライトに当たる『ヒートブルー』や『ラディアントレッド』は、陰翳礼賛(いんえいらいさん)じゃないですけれど、完全に光が当たっているときよりもキレイだと思います。周りが黒く沈んでハイライトだけ鮮やかに青や赤が浮かび上がる感じです。あらゆる光でキレイに見せることで感動してもらうところが狙いでもあるので、自分たちで作って『ああ、キレイだな』って自画自賛するときもあります(笑)」
先日、某フランス自動車メーカーの幹部が、「日本人はカラーに対する意識がとても強い」と話していた。日本人の色への興味やこだわりは、国産メーカーの探求心や努力が少なからずそのような土壌を作り出しているのかもしれない。レクサスが今後作る新色は、“目の肥えた”ユーザーにどんな驚きと感動をもたらすのだろうか。
【※前編を読む】 「お客様の期待を超える色を」「レクサスブランドを大切に」
関連記事