不振からV字回復の「USJ」 社員のこだわり一蹴した立役者の破格戦略

 
連日大盛況のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)

 《ハリウッド映画のテーマパークとして、2001年に誕生した「USJ」。14年には過去最高の来場者数1200万人を突破し、15年には東京ディズニーシーを抜いて1390万人を記録した。それまで不振だったUSJはなぜV字回復できたのか。[長浜淳之介,ITmedia]》

 ハリウッド映画のテーマパークとして、2001年に誕生したユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。米国ユニバーサル・スタジオの海外進出第1号として造られた。

 初年度の入場者数は1100万人を数え、世界でもオープンから最も速いペースで1000万人を突破したテーマパークとして、華々しいデビューを飾った。しかしながら、2年目は700万人台へと大幅に落ち込み、多少回復した年もあったが、おおむね800万人台で推移。2009年には日本経済のデフレが深刻化する中、過去最低の700万人台前半にまで落ち込んでいた。

 この不振に陥っていたUSJをV字回復に導いた立役者が、運営会社のユー・エス・ジェイを今年1月に退社した森岡毅執行役員・CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)である。

 森岡氏がUSJに入社したのは、2010年6月。以降の入場者数の回復は目覚ましく、13年には初年度以来の1000万人に到達。14年には過去最高の1200万人を突破した。15年には東京ディズニーシーを抜いて1390万人となり、世界第4位のテーマパークにランクイン。そして16年10月には、単月で過去最高の175万人を集客し、ついに東京ディズニーランドを抜いた(10月の単月のみ)。

 東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを合わせた東京ディズニーリゾート(TDL)には、まだまだかなわないが、TDLの16年度上半期(4~9月)の入場者数は0.3%減。15年の通期も14年より減少しており、勢いは明らかにUSJの方にある。

 森岡氏のスゴいところは、USJのV字回復を8年連続で値上げをしながら達成したことだ。現在のUSJのチケット(1日券大人・12歳以上)は税込で7600円。TDLの税込7400円(1日券大人・18歳以上)よりも高い。USJの開園時のチケット代は5500円だったが、それから2000円以上も値上がりした。

 値上げしつつも、顧客満足度を向上させて、さらなる集客につながる健全なインフレの持続を成し遂げているのだ。

「映画の専門店」から「エンターテインメントのセレクトショップ」へ

 森岡氏のミッションはテーマパークのコンセプトを「映画の専門店」から「世界最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップ」へと脱皮させることだった。

 その頃よく言われていたのは、USJは映画にこだわらなければTDLと差別化できなくなるという説だったが、森岡氏は「東京と大阪には交通費3万円の壁がある」と一蹴。商圏が違う関西で、すき間を狙うニッチ戦略を取るのは間違いだと強調した。

 日本人がエンターテインメントを楽しむ際に、映画を見る確率は1割。それでは、残りの9割のチャンスを逃がしているわけで「アニメ」「ゲーム」「コンサート」「レストラン」--など、さまざまなエンターテインメントの要素を取り入れていかなければ、巨大なテーマパークは維持できないと森岡氏は主張した。

 一般消費財メーカー、P&Gでヘアケア商品のマーケティングの専門家として研さんを積んできた森岡氏は、自ら無類のテーマパーク好きを公言するほどで、USJに入社する前から世界の主要なテーマパークを制覇。テーマパークで働いた経験こそなかったが、テーマパークをファンの目線で見ることができたのが、森岡氏のマーケティング手法がはまった成功要因だろう。

 森岡氏は入社早々、幹部、ミドルを集めた会議でセレクトショップとしてのブランディング構築をぶち上げた。「USJは“映画の専門店”」という強いこだわりが社内にあったため、この社員の意識を変えることが最大の難関だったという。

お金を使わずに集客

 10周年(2011年)の企画は、社内の資源を使ってお金を使わずに集客するプランを考案。例えば、今まで重視していなかったストリート・パフォーマンスの一種である、アトモスフィア・エンターテイメント(フラッシュモブなど)を強化した。

 これは、仕事をしているフリをしているクルー(従業員)が、突然楽器を鳴らすと、他のクルーも別の楽器を鳴らし出し、さらに入園者(仕込まれたパフォーマー)がダンスを踊ったりして、気が付くと一大パフォーマンスになっているというものだ。

 このフラッシュ・モブは大ウケし、大金を注ぎ込まなくても大きな感動を生みだせることを実証した。社員の意識改革の第一歩となった。

 さらには、ハロウィーン期間に年間パス購入者限定で行っていた「ゾンビに遭遇するイベント」に着目。USJの特殊メイクの技術でゾンビのクオリティーは非常に高く怖いので、日頃のストレスを解消したい若い女性に人気があった。

 これを大規模化することを決断し、夜になるとゾンビがあちこちで徘徊する「ハロウィーン・ホラーナイト」を実施した。巨大お化け屋敷と化し、ゾンビたちが入園者を追い回すUSJは超満員となり、前年まで7万人の集客だったハロウィーンイベントが、5倍以上の40万人を記録した。

森岡氏が示した勝ちパターンを維持できるか

 また、本格的に資金を投入すべき場所には、惜しげもなく投資するのも森岡氏の手法の1つ。典型的な例が、「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッター」と呼ばれるハリーポッターエリアだ。これには450億円が投じられ、14年7月に新設されている。ハリーポッターエリアが造られるのは、米国オーランドのUSJに続いて世界でも2番目。

 10年にオーランドを視察した森岡氏は、日本で成功すると確信。猛反対する他の幹部を説得して、オープンにこぎ着けた。当時800億円の年商であったUSJには不相応の巨額な建設だったが、次々と施策を当ててきた森岡氏だからこそ押し切ることができた。ハリーポッターエリアのオープン後は、関西とそれ以外の顧客の構成比が逆転し、日本全国のみならず、海外からの観光客も増えて、世界のUSJに飛躍した。

 ハリーポッターエリアは細部まで作り込んだリアルさが特徴的で、映画のセットのように英国の古い町並みや、古城のホグワーツ城などを再現している。生えている樹木も英国さながら、おみやげ用のつえや蛙チョコレート、百味ビーンズ、バタービールなど魔法界のお菓子、飲み物もリアルに再現させた。

 空を飛ぶようなライド・アトラクション、つえを振って魔法を掛けられる体験などもあり、入場者が魔法使いの気分になってハリーポッターの世界を満喫できる、万人受けするエンターテイメントとなっている。

「スーパーマリオ」など任天堂のキャラクターとその世界観をテーマとした「SUPER NINTENDO WORLD」は現在建設中で、500億円を投じる計画。2020年の東京オリンピックの前にオープンする予定だ。外国人観光客のインバウンド消費にも大きく貢献するだろう。

 日本発のキャラクターを使った「クールジャパン企画」は、2015年から毎年取り組んでいるテーマで、今年もゴジラ、エヴァンゲリオンなどの日本発キャラクターがアトラクションとなっている。任天堂エリアはその集大成となる施設となる。

 同社は「親しみやすいキャラクターによるファミリー向けアトラクションと、ハロウィーン・ホラーナイトのような若い女性向けのストレスを発散できるアトラクション。この両輪戦略で、今後も成長していきたい」としている。

■長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ) 兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。