【北海道発 輝く】電制 発声補助する人工喉頭を開発 より人の声に近く改良

 
電子部品を組み込み一台ずつ生産される人工咽頭「ユアトーン」の生産ライン=北海道江刺市

 喉頭(こうとう)がんなどの病気が原因で声帯を失い、話すことができなくなった人たちのために、発声補助器具の電気式人工喉頭「ユアトーン」を開発した電制(北海道江別市)。17日に最新モデル2機種を発売するなど、ものづくりで培った技術で、さらなる研究開発を進める。田上寛社長は「多くのユーザーに喜ばれ、感動を与える製品づくりを続けていく」と意欲を見せる。

 細かい変化を再現

 発売するのは3回目の改良型。これまでのユーザーからの意見を取り入れ、使いやすく操作性を向上させた標準型と高機能型だ。音質を改良し従来型より人の声に近づけている。

 人の声は、肺から出た息が喉にある声帯を震わせてことで「ブー」という振動音を作り出す。この振動音が声の元となり、口と舌を動かすことで「話し声」に変わる。

 ユアトーンは、スイッチを押すと声帯の代わりに「ブー」という振動音を作り出す。あごの下側に当てることで、ユアトーンから発生した音源が声帯の代わりとなり、口の下側に伝わって舌や口の形を変えることで発音できる仕組みだ。

 改良したユアトーンは、やわらかい声と響きやすい形状を取り入れ、従来品にも搭載していた音声の「ゆらぎ」を生み出す機能をさらに改良し、声の柔らかさ、聞き取りやすさを向上させた。

 今後はサ行の発声や濁音、高い女性の声などを出せるように音質をさらに向上させ、従来以上に喜怒哀楽の高揚を表現できる製品を開発していく考えだ。

 電制は、1977年に配電・制御装置メーカーとして創業。92年に道内メーカーとして初めてダム管理システムを納入するなど、電力関連を中心に事業を展開する一方、計測機器をはじめ、さまざまな電子機器も生産してきた。

 92年には、北海道大学と北海道工業試験場(現・北海道立総合研究機構工業試験場)との共同研究開発に参画。産学官一体となって福祉機器を生み出してきた。6年後の98年に世界で初めて音声抑揚を導入した人工喉頭を開発している。以来、改良を重ね、2009年に2代目を、さらに今回進化した3代目を製品化した。

 初代の製品では、日本語の同音異義語や方言、アクセント、濁音、なまりが人や地方によって異なるなど、発声の難しさも感じた。使っている機器の形状や素材から、左利き、右利きといった操作性の違いまで、多くの人たちに対応できるように、ユーザーの身になって試行錯誤を重ねてきた。

 ニーズを形に

 ユアトーンのオプションパーツ「パイプアダプター」も今年7月に発売。ユアトーン本体にパイプアダプターをかぶせて、口にパイプをくわえ、口と舌を動かすことで簡単に発声できる。

 開発のきっかけは、多数の医療機関からの問い合わせだ。喉頭摘出手術の後など皮膚の状態によって、ユアトーンを下あごに当てることができない人に対応した製品のニーズが高いことがわかり、開発に結びついた。従来製品にも使用でき、明瞭な発声を可能にしている。

 田上社長は、さらなるイノベーションを目指す。自分の声を再現する研究や、機器を持たずにハンドフリーによって使う方法、外国語の発声-など、「新しい医療福祉機器として展開を図っていきたい」と、感動を与える企業として着実に歩みを進める。(川端信廣)

【会社概要】電制

 ▽本社=北海道江別市工栄町8-13((電)011・380・2101)

 ▽創業=1977年9月

 ▽資本金=4900万円

 ▽従業員=98人

 ▽売上高=17億円(2017年6月期)

 ▽事業内容=電力事業向け各種電力監視制御装置、ダム管理装置、上下水道監視制御装置、福祉機器、電気電子技術応用製品の開発、製造、販売など

■ □ ■

 □田上寛社長

 ■「DENCOM」国境を越えて人に感動を

 --研究開発している分野は

 「エレクトロニクス技術をベースに、音、光、磁気の分野で研究開発を展開している。産学官連携で開発した電気式人工喉頭ユアトーンは、声と音の基礎研究の段階から商品開発を行い、国内シェアトップになるまで成長した」

 --さまざまな製品がある

 「音声生成アプリ『ゆびで話そう』はタブレット、スマートフォンで、なぞるだけで音声がつながり言葉として発声する。2013年に商品化し、ネット経由で販売している。絶縁油などの蛍光を捉えて非接触で油を検知するセンサー、コンクリート柱の内部の鉄筋破断センサーなども開発した」

 --睡眠障害の治療では

 「室蘭工業大学と共同開発した『ルーチェグラス』は、睡眠障害解消用として、高照度光照射技術を用いたウェアラブル型体内時計調節器だ。ルーチェグラスをかけて1万ルクスの模擬自然光で30分間程度、目元を照らすことで、夜型生活からの解消や時差ボケ、集中力が向上するなど臨床実験で効果が認められた。昨年10月に販売し、生活習慣を変えるツールとして全国の病院などからの反響が大きい」

 --『DENCOM』のコーポレートブランドは

 「世界を見据えて、国境を越えてコミュニケーションを大切にしたいと英文社名のDENSEI COMMUNICATION Incからとった愛称だ」

 --今後の展望は

 「経営方針は『人に感動を与え、社員皆がワクワクする会社』。医療福祉分野の商品群を全国展開するためにユーザー一人一人の声を聞き、できることから商品開発に反映させたい。これまで開発してきた、医療福祉製品などの自社ブランド商品の海外展開を視野に入れ、DENCOMブランドを世界に浸透させたい」

【プロフィル】田上寛

 たがみ・ひろし 東海大工卒。1980年電制に入社。93年取締役技術部長、2005年専務を経て、08年9月から現職。63歳。北海道出身。

 ≪イチ押し!≫

 ■利便性向上「ユアトーン」最新2種

 病気などで声を失った人たちに発声補助器具の電気式人工喉頭「ユアトーン」の最新モデルで標準型と高機能型の2種類を17日に発売した。

 これまでの機種の「ボタンが小さい」「文字が見づらい」「電源のオン・オフがわかりづらい」などユーザーの不満を解消した。より簡単な操作で使えるようにした。

 標準型は、ボタン式スイッチを押すだけで簡単に話すことができる。一方、高機能型はスライド式スイッチを上下に操作することによって、声の調子に変化(抑揚)がつくため、同音異義語の区別や語尾で疑問形の表現などができる。

 メーカー希望価格は、標準型が7万3000円、高機能型7万5000円。いずれも日常生活用具として非課税扱いとなっており、各種の補助制度が利用できる。