モンベル製の巫女衣装、ミズノ製の佐川ユニホーム 企業向け制服にアウトドア大手続々参入

 
モンベルが作製した特注品の「ゑびす娘」の衣装。高機能なフリース素材などが使われ、「暖かい」と好評だという(今宮戎神社提供)

 街中で見慣れている宅配便のドライバーのユニホーム、コンビニ配達員の制服などが、実は大手スポーツ・アウトドア用品メーカーの製品という事例が増えている。スポーツウエア開発で培った機能性やデザイン性の高さを生かし、フィールドを作業着などビジネスの領域に拡大。変わり種では巫女(みこ)の衣装を手がけたケースもある。背景には労働環境や顧客サービスの向上、従業員のモチベーションアップなどを図りたい企業側の需要増があるといい、メーカー間の競争が過熱している。(林佳代子)

 ネットで大反響

 《初めて行った十日戎で知った事実。モンベルは巫女衣装を作っている》

 今年1月、商売繁盛を願う「十日戎」が開かれていた今宮戎神社(大阪市浪速区)を訪れた参拝客が、祭りに奉仕する「ゑびす娘」の衣装の袖元に、アウトドア用品大手、モンベル(本社・大阪市)のロゴが入っているとして、短文投稿サイト「ツイッター」に写真と紹介文を投稿した。

 この意外な組み合わせはインターネット上で話題になり、投稿は瞬く間に拡散。《奇跡のコラボレーション》《これはびっくり》などという書き込みが相次ぎ、ネットニュースにも取り上げられた。

 モンベルによると、ゑびす娘の衣装は店舗などで販売されている「O.D.サムエ」という商品をもとにした特注品で、平成22年に神社の依頼を受けて作製。中に着るフリース地のセーターや赤のパンツも、神社のオーダーに合わせて既製品をアレンジしている。神社の担当者は「以前の衣装は中に何枚も重ね着しないと寒いといわれたが、モンベル製にした後は暖かいと好評を得ている」と話す。

 モンベルはほかにも、全国の国立公園を管理する環境省の自然保護官のユニホームなどを手がけており、一般向けには林業や農業従事者をターゲットにした商品も展開。現在は漁業従事者向けの製品も開発中だ。

 開発前に動作解析

 さまざまな環境に耐え得る高機能ウエアの技術を武器に、企業にユニホームを供給しているのはモンベルに限った話ではない。

 五輪選手ら有力アスリートのユニホームを多く手がけるミズノ(本社・大阪市)は9年、企業向けの特注品を手がける部署を新設した。これまでに建設や製造、運輸業を中心に中電工やサカイ引越センターなど500社にユニホームを納入し、昨年度の売り上げは約20億円に上った。今年10月からは十着単位からでも受注に応じる新たなオーダーシステムの運用も始めている。

 開発にはスポーツメーカーならではの工夫がある。佐川急便の配送担当のユニホームを作る際には、実際に作業員に荷物を運ぶ動作をしてもらいながら関節や筋肉の動きを解析。動きやすさや快適性を追求したものに仕上げた。

 デサント(本社・大阪市)も今年4月に企業向けアパレルを手がける部署を立ち上げ、すでに複数社の受注を獲得。今後、さらなる事業の拡大を目指している。

 価格より付加価値重視

 矢野経済研究所が昨年まとめた企業向けユニホームの市場調査によると、平成27年度の国内のユニホームの市場規模(メーカーの出荷金額ベース)は5026億円。分野別では現場での作業用ユニホームが全体の52・3%を占め、2600億円を超え、今後も増加する見込みだ。

 高機能素材を使っている分、一般的な作業服より価格は当然高いが、なぜ受けているのか。ミズノの担当者は、背景に企業の働き方改革やイメージアップ戦略があるとみる。

 近年は新入社員の過労自殺に端を発した電通の違法残業事件などを受け、従業員の労働環境の改善を図る企業が増加。福利厚生の一環で新たなユニホームを作り、従業員のモチベーションアップや採用活動につなげる狙いがあるという。

 さらに労災事故を防ぐ観点からも、安全な作業服への需要が高まり、特に夏の暑さ対策にコストをかける傾向が顕著になっている。担当者は「価格より付加価値を重視して製品を選ぶ企業が増えている。現場のニーズを的確につかみ、商品開発に生かさなければ商機はない。メーカー間の競争は今後さらに過熱するだろう」と分析している。