【経財論】持続可能な社会実現目指す
□経団連企業行動・CSR委員長 二宮雅也氏
経団連は、1991年に「企業行動憲章」を制定し、企業の責任ある行動原則を定めている。今般、7年ぶり、5回目となる憲章の改定を行い、今月8日に公表した。以下に、憲章改定の背景やポイントを紹介する。
近年、グローバリゼーションの進展に伴い、国境を越えた企業活動が活発化する半面、貧困や格差の拡大、気候変動などの課題が深刻化している。そうしたさまざまな変化から、反グローバリズムや保護主義の動きが高まり、自由で開かれた国際経済秩序の維持・発展が脅かされている。
一方、国際社会では、「ビジネスと人権に関する指導原則」や「パリ協定」が採択され、企業に対しても国際社会の一員として社会的課題の解決に積極的に取り組むよう促す動きが広がっている。また、2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」では、「誰一人とり残さない」という理念の下、企業にSDGs達成のため、創造性とイノベーションの発揮を求めている。
◆ソサエティー5.0でSDGs達成
こうした中、経団連では「モノのインターネット(IoT)」や人工知能(AI)などの革新技術を最大限に活用して人々の暮らしや社会全体を最適化した未来社会である「Society(ソサエティー)5.0」の実現を目指している。経済成長と社会的課題の解決が両立するこの人間中心の未来社会は、国連が掲げるSDGsの理念とも軌を一にするものである。こうした背景から経団連では、今般、ソサエティー5.0の実現によるSDGsの達成を柱として企業行動憲章を改定した。
新たな憲章の理念を「持続可能な社会の実現のために」とし、前文では、企業が持続可能な社会の実現を牽引(けんいん)する役割を担うことを明記している。併せて、会員企業が憲章の精神を実践するための参考資料として作成している「実行の手引き」も、全面的に見直して充実を図った。
企業行動憲章は、企業行動に関する10条の原則から成る。今回の改定では、全体的に、企業の主体的行動を促す前向きな表現とするとともに、国内外を問わず適用できるよう、条文の内容を整理した。
第1条では、ソサエティー5.0の実現を念頭に、企業はイノベーションを通じて持続的経済成長と社会的課題の解決を図ることを掲げた。
今回、初めて項目立てされた第4条は、企業における人権尊重に関する条文である。「手引き」では、国際的に認められた人権への理解や人権に配慮した経営の推進に向けた取り組みを解説している。
第6条は、多様な人材の活躍を引き出す働き方の改革や職場環境の充実を扱っており、「手引き」ではSDGsの理念も踏まえ、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容と活用)、同一労働同一賃金などの内容を追加した。
第9条は、市民社会や企業活動への脅威が反社会的勢力のみならず、テロやサイバー攻撃、自然災害など、多様化・複雑化している現状を踏まえ、危機管理の徹底を扱う条文とした。
第10条では、憲章の精神に基づく行動を自社・グループ企業のみならず、サプライチェーンにも促すことが経営トップの役割と明記し、「手引き」では、SDGsの理念を経営に組み込む具体的な方法を紹介している。
◆経営トップの本気度が鍵
今後、新しい企業行動憲章を各社が実践していく上で、経営トップのリーダーシップは欠かせない。鍵を握るのは、経営トップの本気度であり、それを示すメッセージを継続的に発信することや、経営戦略、中期経営計画への反映、各部署への落とし込みや従業員向けの教育・研修など日常の取り組みが重要である。企業行動憲章の精神にのっとり、会員企業が具体的な行動を起こして初めて、持続可能な社会が実現する。
今回の憲章改定の柱となったSDGsは、人類の英知の結集であり、次世代に持続可能な世界を引き継いでいくための唯一の方策である。日本企業は、ESG(環境、社会、ガバナンス)に配慮した経営を進め、自社のみならず、グループ企業、サプライチェーンにも行動変革を促すことで、経済成長と社会的課題の解決を同時に実現し、SDGsの掲げる社会のトランスフォーメーション(変容)に貢献していくことが求められる。
◇
【プロフィル】二宮雅也
ふたみや・まさや 中大法卒。1974年日本火災海上保険(現損害保険ジャパン日本興亜)入社。損保ジャパン日本興亜ホールディングス会長兼損害保険ジャパン日本興亜社長などを経て、2016年4月損害保険ジャパン日本興亜会長(現職)。同年6月から経団連企業行動・CSR委員長。65歳。
関連記事