【高論卓説】IoTがもたらす特許戦略への影響

 

 ■異業種との競合 料金や条件などで衝突

 今月初旬にIT関連企業と自動車メーカーなどの異業種間での特許紛争が増加しているとの報道があった。報道によると、自動車メーカーは米ノキアや米クアルコムなどが設立したアバンシというパテント・プールから通信関係の標準化特許(通信規格などをカバーする特許)についてライセンス交渉を持ちかけられているとのことである。アバンシは、自動車メーカーのコネクテッドカー(つながる車)などを標的としているようだ。

 総務省のサイトによれば「コネクテッドカーとは、ICT(情報通信技術)端末としての機能を有する自動車のことであり、車両の状態や周囲の道路状況などのさまざまなデータをセンサーにより取得し、ネットワークを介して集積・分析することで、新たな価値を生み出すことが期待されている。具体的には事故時に自動的に緊急通報を行うシステムや走行実績に応じ保険料が変動するテレマティクス保険、盗難時に車両の位置を追跡するシステムなどが実用化されつつある」とのことである。

 他にも今年の3月に米マイクロソフトが、トヨタ自動車に対してコネクテッドカーに関連して特許をライセンスしたという報道があった。

 現在、あらゆるデバイス(機器)がインターネットに接続され、相互に情報をやりとりし制御する、いわゆる「モノのインターネット」(IoT)が急速に進みつつある。これまでは、同業種だけを競争相手として仮想しておけばよかったものが、IoTの急速な発展および拡張により、ITや通信関係の企業とデバイスを提供する企業といった異業種の企業が競合することになる。

 特許戦略的にいえば、同業者の特許だけを気にしていればよかったのにITおよび通信関連の特許も気にかけなければならないということである。また、異業種だから特許に対する考え方も違う。デバイスメーカーといっても、デジタル機器を製造しているようなメーカーはまだしも車や化学品のようないわゆるすり合わせ技術(インテグラル技術)が必要なものを製造しているメーカーではオープンになっている特許技術だけで製品を製造できるわけではなく、独自のノウハウがかなりの部分で必要になってくる。

 これに対し、ITおよび通信関連の技術では、もちろんノウハウが必要な部分もあるが、それよりも技術をいかにうまく組み合わせるかという点が重要となる(モジュール技術)。コネクテッドカーでいえば、ICT端末としての部分はモジュールであり、車の部分はインテグラルということになり、両者が混在している。

 このような業種の違いから特許に対する考え方はかなり異なり、特許ライセンス交渉に対するスタンスも異なってくる。ゆえにライセンス料やライセンス条件といった点で衝突を生みやすい。もっとも、国家もこのような状況に手をこまねいているわけではなく、特許庁は標準必須特許のライセンス交渉に関するガイドラインを策定しようとしている。

 また、IoTがもたらす特許戦略への影響は、これだけにとどまらない。デバイスメーカーは、これまで特許戦略に注力してきた会社も多いが、IT・通信関連の会社では、マイクロソフトなどの大手を除けば、特許戦略に全く注力してこなかった会社も多い。今後は積極的に特許戦略に注力する必要があるだろう。

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【プロフィル】溝田宗司

 みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。17年1月、溝田・関法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。41歳。大阪府出身。