【NHK受信料「合憲」】放送法制定から60年 ネット戦略模索するNHK
NHKの受信料制度は最高裁から「合憲」と判断されたが、インターネット時代を迎え岐路に立たされている。受信料徴収の根拠となる放送法の制定は60年以上前で、多様化した現代のメディア状況に対応できておらず、公共放送に対する国民の認識も大きく変化した。NHKは視聴者の十分な理解を得られないまま、将来的な財源確保を狙いネット戦略を模索している。
放送法の制定は昭和25年。今回の訴訟でNHKは、全国的な放送網や災害報道の維持などに「受信料制度が不可欠」と主張したが、NHKがテレビ放送を開始した28年に1社だった民放のテレビ局は、現在130社以上となり多彩な番組を提供している。ネットメディアの普及も相まって公共放送の存在感は薄れつつあるのが実情だ。
受信料は放送の対価ではなく、公共放送を維持するための「特殊な負担金」と位置付けられる。だが、平成27年のNHK調査では、20代の16%、30代の13%がテレビを「ほとんど、まったく見ない」と回答するなど若者のテレビ離れは顕著だ。立教大の服部孝章名誉教授(メディア法)は「NHKの必要性を感じない人が増えるほど、受信料を支払う意義はますます形骸化していく」と指摘する。
さらに長期的な視野に立てば、人口の減少も作用し、NHK財政にとって「大きな懸念材料」(NHK関係者)となっている。
NHKもネット戦略の強化にかじを切っている。その柱となるのが、ネットでテレビと同じ番組を流す「常時同時配信」で、放送法を改正し31年度から始める考えだ。NHKは「応分の負担を求める」(上田良一会長)として、同時配信に伴いテレビを持たずネットのみで視聴する世帯向けに受信料を新設し、将来の新たな財源確保に道筋をつけたい狙いがある。
しかし、視聴者の反発は大きく、9月に表明した基本方針では受信料新設の結論は先送りされた。ただ、将来的に課金される可能性は残されたままだ。
受信契約の未契約者は昨年度末で900万世帯を超える。服部氏は「最高裁の判断でNHKの督促に“お墨付き”が与えられることになり徴収業務に弾みがつくだろう。しかし、NHKに求められるのは、受信料に対する国民の理解が深まるよう、自身の存在意義を丁寧に説明することだ」と指摘している。(玉崎栄次)
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