【スポーツbiz】ブランドを守る 傷はいずれ打撃に

 
IOC理事会であいさつするバッハ会長=5日、スイス・ローザンヌ(ロイター=共同)

 なぜ、国際オリンピック委員会(IOC)は来年2月の平昌オリンピックからロシア選手団を排除したのか。

 昨夏のリオデジャネイロ大会前、自ら可否を判断せず、各国際競技団体(IF)に“丸投げ”した対応と明らかに異なる。

 もちろん、「国家ぐるみ」のドーピングに動かぬ証拠が見つかったという理由はある。しかし、厳然と決断した背景はそれだけではあるまい。

 リオの際、IOCの対応に批判が渦巻いた。関連諸機関、メディア、そしてスポンサーからも、それは聞こえた。

 いわく、反ドーピングに手ぬるい。大国ロシアだから、おもねるのか。IOCは、平昌でもそうした非難の声が拡散されることを極めて恐れた。

 放置しておけば、IOCの影響力がそがれる。「オリンピックの価値」「スポーツの価値」が下がる。それを見過ごすことはできない。

 ◆大切なイメージ

 IOCはスイス政府に承認された非政府組織(NGO)である。あれだけの地球規模の事業を続けながら、国家間が法律で取り決めた組織ではない。世界的な民間団体に過ぎない。

 その財源はテレビ放送権料、今はインターネット関連も存在しメディア権料と呼ぶ人もいるが、そしてスポンサーからの収入が大半を占める。公表されている2013~16年の収入額は77億9800万ドル(12日の為替レートだと約8850億円)、うち53%が放送権収入、13%がTOP(The Olympic Partner)と呼ぶワールドワイドのスポンサーからの収入である。

 では、IOCは何を売って収入を得ているのか。夏・冬のオリンピック競技大会の映像であり、IOCが所有するオリンピックシンボル、「五輪マーク」などにほかならない。

 それらはモノではない。イメージである。言い換えれば、人気であったり、雰囲気であったり、空気だといっていい。

 失礼ながら、実体のない空気を売っているわけだ。だからこそ、イメージを傷つけてはならない。厳しく細かく扱いを規定し、事にあたる理由である。

 日本ハムからポスティングシステムを使い、米大リーグ、アナハイム・エンゼルス入りした大谷翔平投手は、というか代理人を含む大谷サイドは実に見事な交渉能力を示した。

 交渉開始から1週間で結論を出した。金額を含む条件をつり上げるため、ごねたり、思わせぶりな態度を取ったりすることもなく、さわやかに契約し、記者会見に臨んだ。こうした態度がいい方に働かない訳はない。

 関西大の宮本勝浩名誉教授は9日、大谷のエンゼルス入りによる日本とアメリカにもたらす経済効果を、207億5000万円と算出した。

 観客動員の増加による放送権料や広告料収入の上昇。観戦のための交通費、飲食費などファンが支払う金額の増加。日本のファンが観戦ツアーに参加する旅行費用といった直接効果に、二次的な波及効果を合わせた試算である。

 ◆価値のアピール

 そこに大谷を取り巻く歓迎ムード、あるいはイメージの高騰が加われば、さらなる効果が期待できるだろう。スマートな振る舞いが後押しする。

 その逆が、元横綱日馬富士による貴ノ岩殴打事件に右往左往する日本相撲協会である。

 情報不足は確かにあるだろうが、事件が発覚した後の動きはほとんど後手にまわった。貴乃花親方の後に引かない対応もあって実情究明が遅れ、大相撲のイメージは著しく低下した。

 九州場所後の巡業は依然、人気の高さを示したが、この状態が続けば、いつまでファンの心をつなぎ止めておけるか。たとえ来月の初場所は影響がみられなくとも、いずれボディーブローのように利いてこよう。

 観戦客の足を止め、大相撲ブランドに傷がつく前に、協会は内に外に動く必要がある。

 スポーツビジネスは、イメージをブランドとして売って成り立っている。だからこそ、ブランドを守り、イメージを高めていかなければならない。

 IOCのトーマス・バッハ会長は、年内の北朝鮮訪問を検討していると聞く。平昌大会参加を促し、大会の不安材料を少しでも消しておきたい。うまく事が進めば、国際社会に「オリンピックの価値」をアピールできる。ロシアへの対応と呼応した動きに映る。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)