日本の「財団」を投資家警戒 安定株主作り疑い、企業改革促す

提供:ブルームバーグ
東京都千代田区にある出光興産の本社ビル(ブルームバーグ)

 日本企業の内部留保が過去最高水準に達する中で、資本の使い方に対する懸念が浮上している。金庫株を自ら設立した財団に割り当てるなど「安定株主作り」と取られかねない動きもあり、投資家らは「ガバナンス(企業統治)改革に逆行しかねない行為だ」と警戒を強めている。

 ◆少数株主の提案軽視

 今年3月、工作機械メーカーDMG森精機の定時株主総会が注目を集めた。会社側は森雅彦社長が代表を務める財団を支援するため、3%弱の株式を1株当たり1円で信託銀行に割り当てると提案。これに対し、米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が「財団が経営陣の保身の道具になっているとの印象が払拭できない」などとして反対を推奨したのだ。結果は賛成比率が67%と可決に必要な3分の2を辛うじて超え、会社側にとっては薄氷の勝利だった。

 投資家が安定株主を目の敵にするのは、会社側が多数派工作をしやすくなることで少数株主の軽視につながると考えるからだ。日興アセットマネジメントの中野次郎株式運用部長は「安定株主が多いと、いくらわれわれが反対票を投じても議案が通ってしまう。企業は株主価値の向上策へ動く必要がなくなり、せっかくの対話も全く意味がなくなる」と指摘する。金融庁の資料によると、2016年時点で自社の安定株主が50%以上と答えた国内上場企業は40%以上に上った。

 ISSの石田猛行代表執行役は「こうした提案は全くよくない」と懸念する。「日本企業の株式持ち合いは減っても、別の形で安定株主が生まれれば効果は同じだ。この枠組みは抜け穴ではないかと思う」。その後、小林製薬や大研医器、ゴールドウインも財団支援のため株式第三者割り当てを提案。ISSは反対を推奨した。石田氏は「財団への投資によってどんなリターンがあるかの説明が非常にあいまいだ」とし、安定株主作りという真の目的を覆い隠しているとみる。

 ◆「有事」議決権に懸念

 DMG森精機は総会前に、財団は安定株主ではなく自己株は議決権を分離しており、当社や財団は議決権行使の指図ができない契約になっているなどと反論した。また、自己株式の使途については財団のCSR(企業の社会的責任)活動を支援するために活用するのが最も有効との結論に至ったなどと説明していた。小林製薬、大研医器、ゴールドウインの担当者も、株式割り当ては安定株主作りを目的としたものではないと述べた。

 昨年発表された出光興産と昭和シェル石油の経営統合をめぐっては、出光創業家が反対に回るとともに、財団と美術館を合わせて33.92%の議決権を握った。野村証券の西山賢吾シニアストラテジストは、各社が設立している財団が有事に議決権を振りかざす「出光のような使われ方をするのではないかという懸念は当然出てくる」と指摘した。

 日本の企業業績は好調で、SMBC日興証券の11月の集計では、東証1部上場企業の今年度の最終利益合計は前期比8.4%増の33兆1610億円と過去最高を更新する見通しだ。投資家からは利益を内部留保に回すのではなく、効率的な活用を求める声が上がる。「日本企業の資本効率は欧米に比べまだ低い」と、グローバルな投資家団体「国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)」は10月19日、金融庁の会合で改善を促した。

 ◆「企業統治への反旗」

 株主対策の一つが自社株買いだ。ゴールドマンサックス証券は、18年度は6.8兆円とリーマン危機以降で最高額に達すると見込む。ただ、日興アセットの中野氏は、自社株買いは株価にはポジティブとしながらも「金庫株で置いておくなら消却してほしい」と注文する。財団への割り当てについてはケース・バイ・ケースとしながら「単に配当を財団に回すだけなら眠っているのと同じ。われわれは投資したお金をもっと効果的に使ってほしい」とした。

 約20兆円の資産を運用する日興アセットは大研医器とゴールドウインの提案に反対を表明した。議決権行使結果を個別開示した。DMG森精機と小林製薬の提案への賛否は、開示決定前だったために明らかにしていない。野村アセットマネジメントは4社全ての提案に反対した。

 野村証の西山氏は、財団を使った枠組みが「アベノミクスに逆行しているかどうかは別として、そう思う投資家はいるだろう」とみる。31億ドルの運用資産の6割を日本株が占める米ヘッジファンド、ダルトンインベストメンツのジェイミー・ローゼンワルド氏は「財団方式はコーポレートガバナンスコードへの直接的な反旗だ。株主の資産を財団へ引き渡すことで安定株主を作ろうとする狙いは明らかだ」と話した。(ブルームバーグ Takako Taniguchi、Keiko Ujikane)