【視点】バイオマス発電でバブルが再燃 FITの抜本的な見直しを急げ

 

 □産経新聞論説委員・井伊重之

 再生可能エネルギーをめぐるバブルが再来している。最初のバブルは太陽光発電だったが、今度はバイオマス発電で事業者の申請が殺到している。再生エネで発電した電気を電力会社が定められた値段で買い取る「固定価格買い取り制度」(FIT)にもとづく高い買い取り価格が大きく響いており、最後は国民が支払う電気代に転嫁される仕組みだ。政府はバブルを何度も招くような欠陥を持つ制度の抜本的な見直しに取り組まねばならない。

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 バイオマス発電は、木くずや食物などの生物に由来した物質を燃料として発電する。5年前に始まったFITの買い取り対象となっており、日照時間や天候などに左右される太陽光や風力よりも安定的に発電できる特徴がある。

 このバイオマス発電の設備認定が急増している。2015年度の認定容量は601万キロワットだったが、16年度には1473万キロワットに急伸し、すでに今年度も9月末までに約130万キロワット以上のバイオマス設備が認定されたという。

 この中核は木質ペレットを燃料とする木質系のバイオマス発電だが、その買い取り価格が今年10月以降、1キロワット時当たり24円から21円(出力2万キロワット以上)に引き下げられた。このため、価格改定に先行して昨年度から駆け込みで認定申請する事業者が相次いだ。

 政府が決めた30年度の電源構成目標によると、再生エネは全体の22~24%としており、このうちバイオマス発電は最大730万キロワットを想定している。すでに目標の2倍以上の発電設備が認定を受けた格好だ。これがすべて稼働すれば、買い取り費用は1兆円以上増加すると試算されている。

 このバイオマス発電がFIT対象となったのは、過疎地などにおける林業振興の目的もあった。林業人口が減少する中で地域の雇用の場としてバイオマス発電を活用してもらい、地球環境と地方創生の両立を促す狙いがあったが、今ではうまみのあるビジネスとして大手商社なども相次いで事業参入している。

 太陽光発電でも5年前の制度開始時に高い買い取り価格を設定したため、事業者の申請が殺到した経緯がある。政府は太陽光発電の買い取り価格を毎年引き下げて現在は当初の半値としたが、一度認定を受ければ、20年にわたってその価格で買い取ってもらえる「早い者勝ち」の制度であり、その弊害は今後も続く。

 こうした高い買い取り価格は、電気代に上乗せされる賦課金として国民が負担する仕組みだ。すでに太陽光を中心に今年度の賦課金総額は2兆円に達する勢いだ。標準家庭の月額負担は約800円、年間で1万円程度の負担となる。今後も賦課金は増え続けて30年度には現在の2倍に膨らむ見通しだが、バイオマス発電の増加によって国民負担はさらに重くなりかねない。

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 木質系バイオマス発電をめぐる問題はこれだけではない。燃料となる木質ペレットのほとんどをアジアなどからの輸入品が占めているのだ。再生エネは原子力と並ぶ国産電源とされているが、木質ペレットは国産とはいえない。バイオマスの発電コストの7割は燃料費が占めており、賦課金で1兆円を集めてもその多くが燃料費として海外に流出してしまう計算だ。

 こうして認定された木質バイオマス発電設備をすべて稼働させると、木質ペレットを年3000万トン以上輸入する必要があるという。これは現在の世界の生産量を上回る規模であり、現実的な数字とはいえないだろう。それでもアジアでは、木質ペレットの加工工場が相次いで建設されており、日本向け輸出に意欲を燃やしている業者が増えているという。

 今後の日本は少子高齢化が急速に進み、社会保障費の膨張は避けられない。そうした中で暮らしや産業を支える基盤である電気の料金高騰を許すような仕組みをいつまで続けるのか。FIT導入時には再生エネを日本の新たな産業に位置づけるとしていたが、太陽光を含めて外資ばかりが儲かる制度は課題が山積している。再生エネも補助金に頼らない自立電源として脱皮させなければならない。