【論風】繰り返される企業不正 信用回復へ防止法の制定を

 

 □知財評論家(元特許庁長官)・荒井寿光

 日本製品は品質が良く、日本企業は信用できると世界中で高く評価されてきた。しかし、その信用を揺るがす事件が最近、相次いで発覚している。

 神戸製鋼所は、国内外の17工場・子会社で、長年にわたりアルミや鉄鋼製品の検査データを改竄(かいざん)してきた。同社では、2006年に製鉄所で環境基準を超える煤煙(ばいえん)データを書き換え、08年には製品データの改竄が行われており、今回で3回目の不正だ。

 ◆「あり得べし」を前提に

 日産自動車やSUBARU(スバル)では、無資格の社員が完成車検査をするという不正が長年にわたり行われ、正式な検査を経ない膨大な台数の自動車が販売されてきた。三菱マテリアルや東レの子会社でも製品データの改竄が行われてきた。

 16年には、三菱自動車は、自動車の燃費検査データを偽造していたことが明らかになったが、同社では00年と04年にリコール隠しが行われ、死亡事故も発生している。東洋ゴムは07年に防火用断熱パネルの不燃性能試験で不正をしており、再発防止策を講じたはずだったが、15年に、免振ゴムと防振ゴムのデータを改竄していたことが明らかになった。旭化成建材は、くい打ちデータを偽装し、マンションの安全が確保されず入居済みのマンションの建て直しに追い込まれた。

 13年には有名レストランやデパートでの偽装メニューや産地偽装が大きな社会問題となった。

 このような企業不正は、消費者の安全・安心を脅かすものであり、日本の信用を著しく低下させている。

 問題は、個々の社員が出来心でやったものではなく、多くの業種で、部署ぐるみで長年にわたり行われている構造的なことだ。

 企業不正を「あってはならない」「わが社ではないはず」と片付けるのではなく、「企業や社員は不正をするかもしれない」「わが社でも起きるかもしれない」と考えるべきだ。

 ◆新法の4本柱

 企業が再発防止策を作っても、不正が繰り返されている現状を見ると、企業不正をすると社員も企業も損をするような企業不正防止法を制定する必要がある。以下の4項目が柱となる。

 (1)企業の責務 企業不正の防止は企業の本来的な責務であることを明確にする。企業は品質憲章を作り、品質や信用を利益や納期に優先させることを宣言し、「企業公正白書」を毎年公表する。

 (2)企業不正準詐欺罪の創設 日本では、検査データ不正は詐欺罪に当たらないと解釈されているが、米国の連邦詐欺罪は、検査データを不正に作成して、商品を販売すれば、実害が出ていなくても、詐欺罪に当たるともいわれている。実害が出るのを待って処罰するのではなく、企業不正をして商品を販売した段階で、刑事罰の対象とする。

 (3)法定賠償制度の導入 不正検査データや無資格検査の商品の買い主は、検査をし直したり、取り換えたり、時間も費用もかけなければならず、相当な損害が発生する。しかし、現行民法では、被害者が損害を立証しなければならず、損害賠償を請求することは事実上きわめて難しい。そこで法定賠償の考えを取り入れ、被害者の立証責任を免除して、例えば商品代金の10%を賠償することにする。

 (4)課徴金の導入 企業不正は世界的に日本の信用を低下させており、公益に関する悪質な行為なので、行政処分として課徴金を導入する。独禁法では、カルテルや入札談合防止のため、形態や企業規模に応じて10%から1%の課徴金を定めている。これを参考に、企業不正防止のため、形態に応じて一定比率(例えば5%)の課徴金を課することにする。

 企業不正の再発防止のため、このような抜本的な対策を取って、日本が世界一、正直で信用できる国というブランドを回復しなければならない。

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【プロフィル】荒井寿光

 あらい・ひさみつ 東大法卒、ハーバード大大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省、特許庁長官、通商産業審議官、初代内閣官房・知財戦略推進事務局長、世界工業所有権機関政策委員を歴任。退官後、日本初の「知財評論家」を名乗り知財立国推進に向けて活動。著書に「知財革命」「知財立国」。72歳。長野県出身。