【高論卓説】「ゴールデンエイジ」の育成強化

 

 ■発掘急げ 未来のトップアスリート

 いつの間にか、年の瀬を迎えた。年が明ければ、すぐに韓国の平昌でオリンピック・パラリンピック冬季大会が開かれる。加えて、サッカーのワールドカップ(W杯)が7月にロシアで、そして翌2019年、アジアで初の開催となるラグビーW杯が日本で開かれ、フットボールの話題で持ちきりとなる。20年東京五輪も開催まで1000日を切った。連日、スポーツの話題がメディアに取り上げられるのが18年という年なのだろう。

 スポーツの世界では、小学校3年生から6年生までを「ゴールデンエイジ」と呼び、とても大切な時期とされている。自分の身体を自在に動かすことができるようになるこの時期に、特定のスポーツに必要な動きを基本からしっかり学ぶと、ぐんぐん伸びていく。

 今ちょうどゴールデンエイジを迎える子供たちが10年、15年後に世界の舞台で活躍し、国民を勇気づけている時代の日本は、高齢化が極まり経済成長の大きな足かせなっている。その時代を見据え、今の子供たちが確実に活躍できるようにするための戦略は、日本の明るい未来を描く上で欠かせないものだ。

 日本では、子供たちの運動能力の向上を学校体育が担ってきた。そこで際立ったパフォーマンスを見せる子だけが特定の競技の専門的な指導を受け、中学、高校、大学へと進みながら全国レベルの大会で実績を残し、世界への道へ踏み出していく。

 子供たちが憧れる日本のプロスポーツといえば、野球である。日本のプロスポーツの中でも最も高い年俸を得られる競技であり、プロを目指さなくても、甲子園という大きな舞台が用意されている。それを目標に多くの子供たちが自発的に野球に取り組む。

 小学校から中学校と努力し、高校では甲子園常連校に入学できても、ベンチ入りできずにアルプススタンドで声を張り上げ、応援するだけになる場合も多い。

 その中には、陸上であればやり投げやハイジャンプ、あるいはトラックの中距離で身体能力を発揮できたであろう者は少なからずいるはずだが、後の祭りなのである。ゴールデンエイジの時期から、野球以外の競技の可能性を排除していては、少ない子供たちの中から、夏季、冬季のさまざまな競技で活躍する多様なアスリートを育てることはできない。

 11年3月に策定された「スポーツ基本計画」では「学校の体育に関する活動と地域スポーツの連携促進の観点から、総合型クラブによるスポーツ指導者の派遣のための体制の整備を推進する」としている。その結果、放課後や週末には学校施設で教師以外の指導者が子供たちを指導する機会が格段に増えた。

 しかし、全ての子供たちの運動能力を見て、適性を見極めるスカウティングシステムが日常的にあるわけではない。例えば、小学校の体育の教師はさまざまに分けられた競技に精通しているわけではなく、大勢の子供たちの隠れた才能を正確に見いだし、適切な指導を個別に行うことができない。

 そこで各競技団体が、どのような身体的能力や肉体・骨格が、それぞれの競技に必要であるかを体育の教師に分かりやすく示すことで、教師が日ごろの指導の中でつかんだ子供たちの能力を各競技団体に伝えるとともに、カウンセリングなどをしながら、子供たちを未知の競技に導いていくことが必要だ。

 週末、小学校の校庭などで繰り広げられる人気球技の指導を金網越しに眺めながら、子供たちに視野を広げさせる取り組みが急がれると強く感じた。

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【プロフィル】井上洋

 いのうえ・ひろし ダイバーシティ研究所参与。早大卒。1980年経団連事務局入局。産業政策、都市・地域政策などを専門とし、2002年の「奥田ビジョン」の取りまとめを担当。産業第一本部長、社会広報本部長、教育・スポーツ推進本部長などを歴任。17年9月に退職。同年10月より現職。60歳。東京都出身。