【高論卓説】大学院増加に警鐘 収入や体裁にこだわるなら質的低下

 
日体大理事長の松浪健四郎氏

 大学院に進学して体育・スポーツ史を専門的に学びたいと考えていた1970年当時、この分野の研究科を持つのは東大、東京教育大(現筑波大)、日大しかなかった。現在では体育・スポーツ科学系の学部を持つほとんどの大学は大学院を設置する。大学教員には修士号や博士号の学位が求められるようになったことに加え、大学院を設置することで、文部科学省からの補助金が増額される理由にもよる。また、大学としての評価が高まる一因ともなろう。

 大学院の授業を担当する教員は、学部の教員よりも研究業績が問われ、格が上とされる。体育・スポーツ科学の分野は、日本では新しい学問であったがため、容易に優秀な教授陣をそろえることができなかった。大学院を設置するのが難しかったのである。

 数年前から大学院への進学者は増加傾向にあり、学部だけの学問では不十分と認識する学生が多くなっている。ジャンルが細分化され、より高度な知識を身につけるには大学院へ進むべきだと考えるのだ。先進国として研究者を養成する義務が大学にあり、一流大学としての体裁を整えるためにも各大学は大学院を設置する。

 国立大教授の定年は、60~63歳。天下り先として定年が70歳の私大を選ぶ。優秀な教授は、私大の新設学部や大学院の柱となり、文科省の設置審をパスする。岡山理科大の獣医学部教授が、高齢者が多いと指摘されたのは、国立大を終えた教授が多かったからだ。

 大学院の教育・研究は重要だ。ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工大栄誉教授も話していたが、大学院や大学では主に費用を要する基礎研究が行われる。どの大学も文科省の科学研究費を獲得するために努力しているが、予算が十分とはいえない。

 大学授業料無償化を唱える各政党は、大学院支援や科研費増額を口にしない。わが国の研究力向上を考えたとき、大学院の発展こそが将来を左右する。

 既に英語は国際標準となっていて、大学院の講義は多くの原書を用いて行うのが一般的であるがゆえ、院生の語学力は高いはずである。外国でも活躍できる力量を蓄えている院生でなければならない。そのレベルに達していない大学院があるとすれば、見直す必要もあろう。法科大学院の失敗を糧にして、文科省に改善策を求めたい。

 院生時代、ドイツ語と英語の授業に泣かされた。学界をリードする一流教授陣たちは、容赦なく勉強と研究を強制した。だが、少人数だったので、緒方洪庵の適塾よろしく互いに学問を楽しむことができた。

 文科省は、大学入学定員の厳守を通達し、ペナルティーも準備しているが、大学院の入学定員についてはお目こぼししている。大学は収入増を大学院に求めて逃げ道としているなら問題で、質的低下を招く。深遠なる学問の深化や基礎研究は、今日では大学院教育にかかっているといっても過言ではない。

 かつて米国は、ドイツ、英国に比べて大学の発展が遅れている理由から大学院を初めて設置し、学位を出すことによって優位に立つようになった。世界の大学評価機関で順位を下げ続ける日本の大学。名誉挽回に向け積極的に議論しないが、私は大学院教育の充実策をまず考えるべきだと考える。国際標準の異議を訴えるだけでは、日本の大学は衰退してしまう。大胆な大学改革を19世紀後半の米国のごとく断行すべき時期にさしかかってはいまいか。

【プロフィル】松浪健四郎

 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。71歳。大阪府出身。