【高論卓説】実践に役立つ企業研修か 生産性向上へ参加者の成果測定必要

 

 生産性向上の要請が高まる中、企業研修がどれだけ生産性向上に役立っているかを問う声が高まっている。企業研修を実施すれば、参加した社員の研修時間当たりの通常業務による生産性はゼロとなる。企業研修がそれに見合う生産性向上効果をもたらしているかが問題だ。企業研修の生産性向上効果は、その研修がビジネス実践に役立っているかどうかという点と、研修成果が高いかどうかという測定結果によって判断できる。

 研修がビジネス実践に役立っているかどうかは、研修参加者が研修で学んだスキルを実際のビジネスの場面で実践することと、研修参加直前、直後、1カ月後の3つの時点の研修参加者のスキルレベルの見極めによりある程度測定できる。研修で学んだスキルの実践のために最も簡単で、効果が高い方法は、そのスキルを研修後1週間以内にビジネスで活用して、講師にリポートや質問を送付することだ。スキルレベルの見極めは、講師が行ってもよいが、実は確度が予想以上に高いのは、参加者が自己診断することだ。スキルが高いか低いかを一番分かっているのは自分自身だからだ。

 このように申し上げると、「人それぞれ甘辛のバラつきがあるから自己評価は信用できない」という声を聞くことがある。しかし、参加者横並びで優劣をつけようとしているわけではない。一人一人の参加者の3つの時点でのスキルレベルの自己認識の変化を見るので、そのデータは意味を持つ。1回のデータだけではなく、複数回数の研修に参加し、複数プログラムのデータが集計されると、確度がさらに上がる。

 研修成果が高いかどうかの測定は、複雑な方法を用いることなく実施できる。企業の人材開発部門から私に依頼のある研修成果測定内容は、参加者が研修したスキルレベル、成長余力、能動性、迅速性、モチベーションファクター(意欲を高める要素)の5つだ。

 今日の企業においてスキルレベルが高く、今後の成長余力も大きい人材を上位のポジションに登用したいと考えることは、自然なことだ。ビジネス環境変化の方向性が多様で不確実、変化速度も各段に高まる中、能動的にチームを牽引(けんいん)したり、迅速に行動したりする特性を見極めるニーズは依然高い。 

 スキルレベルは、プログラムで実施する演習自体の結果で図られる。その上、達成度で成長余力が測定される。能動性は演習での発言や質問やモデルロールプレーイングなどを、自ら率先して実施したかどうかで計測される。そして、迅速性は演習当日の発言や事前・事後課題の提出の順番で見極める。モチベーションはスキル、成長性、能動性、迅速性を高める根源的な要素であると考えているので、独自の手法でモチベーションファクターの測定も行う。

 このように、自己診断、実施有無、発言や提出の順番というような、一つ一つはとても単純なデータも、これらを集積すれば、意味のあるものになり、参加者一人一人の研修成果測定結果として意味を持つ。そして、参加者全員の研修成果測定結果の合計が、その研修自体の成果を示すのだ。

 参加者の研修参加時間に応当する生産性と比較して高いか低いかで研修の価値を見極めればよい。このような簡単な構造を組み込むことで研修の実践性と研修成果測定は可能となる。そして、こうした組み込みを躊躇(ちゅうちょ)する研修主催部門が実に多いことが、大きな問題であると言わざるを得ない。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年8月にモチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社)。55歳。長野県出身。