経済環境良好の今こそ果敢な戦略を 経済同友会・小林喜光代表幹事

 

 戦後2番目に長い高度経済成長期の「いざなぎ景気」を抜いた日本経済の2018年が始まった。ただ、足元では企業の人手不足や少子高齢化の進展など、将来への不安は拭えない。そこで経済3団体トップに成長に向けての展望などについて聞いた。

 --昨年を振り返ると

 「米トランプ政権発足、英国の欧州連合(EU)離脱交渉など、世界経済にとって、不安定な要素の方が多く、年末まで経済の好調を保てるか、不安に感じていた。しかし、世界経済は良いパフォーマンスを維持できた。日米の株式市場は上昇を続けた。また、昨年7~9月期の成長率が実質で2.5%、名目で3.2%というのは予想外の出来過ぎじゃないのか。原油価格の下落や、円安、成長率の上昇や失業率の低下、貿易収支の改善など多くの経済指標が良くなり、世界経済も堅調だ。アベノミクス5年目の中でいい環境にある」

 --今年もこの堅調が続くのか

 「北朝鮮の核・ミサイル問題は米国にとって看過できないし、日本にも深刻な問題だ。さらに、トランプ大統領のエルサレム首都認定など地政学リスクが大きくのしかかる。米中間選挙を意識する中で、トランプ氏の公約とはいえ、この時期でやるべきか疑問。内政に起因する問題が、世界のリスクになっている」

 「ただ地政学リスクを除けば、米国経済も利上げを続けていくような好調な状態だ。原油価格の上昇の可能性はあるが、せいぜい(1バレル=)70ドル程度で済み、大問題にはならないだろう。中国、インド、タイなどの新興国経済も好調だ。欧州も堅調だし、日本経済も金融緩和の状況から、出口戦略を探るかのタイミングに移るようになるだろう。経済的には極めて安定し、地政学リスク以外の懸念はない状況だ」

 --この状況の中でどういった取り組みが必要なのか

 「経済の環境がいいこの時期に、イノベーションをベースにした成長戦略を果敢に進める必要がある。イノベーションは10年のスパンで考えるものだ。アベノミクスの金融緩和と財政出動によって稼いだ時間を生かして、今後5年先を見越して、素材革命や自動運転、ロボット化やAI(人工知能)化に備えるべき。2020年の東京五輪・パラリンピックが終了しても、日本経済が縮小しないように、日本らしいイノベーションを生み出すべきだ」

 --そうなるとデフレ脱却をどう進めるのかが正念場だ

 「(こっそり行う資産購入額の漸減である)ステルス・テーパリングに続き、いつデフレ脱却を宣言するのかが重要だ。欧米が利上げを進めていくなかで、いつまでも日本だけが金融緩和で、円安に誘導していてもいいというわけではない。その時期が今年なのか、来年なのかは分からないが、同時に物価が上がらないことが本当に悪なのかを議論しなくてはならないだろう。飽食の時代でシェアリングエコノミーも広がるなど、モノが飽和した社会の中で、かつてとは消費の仕組みが全く異なってきている。物価は上がらないが、経済は一定程度成長して、人々の生活が豊かになるなら、そう悪いことではない。だが、心の問題としてデフレ脱却は必要だ」

 --何が必要なのか

 「将来への希望を持ちづらく、高齢化が進む中で、自らが(老後の資金などを)備えておかなくてはならない。日本人のメンタリティーとしては、自分で何とかしようと考えるだろう。そのためには社会保障制度改革をゼロベースで取り組む必要がある」

 --具体的には

 「財政の健全化、とりわけ今の社会保障制度は、安倍政権発足以来、考え方は変わっていない。だが、社会保障について考え直す必要に迫られている。全世代型にするのならどうすればいいのかを考えなくてはならない。抜本的な改革を進めるには、具体的な根拠を示して議論しなくてはならない。社会保障にこれだけ必要となれば、消費税率を10%どころか、それ以上に引き上げなくてはならないことも理解される」

 --昨年、企業の製品データ改竄(かいざん)などの不正が問題になった

 「法令順守が最も重要だ。なあなあだとか、『あれぐらいなら許される』といった解釈は許されない。グローバルでは全く通用しないことだ。経営者は常に、コンプライアンス(企業統治)、安心、安全を語り続け、企業の文化を変える努力を継続しなくてはならない」

【プロフィル】小林喜光

 こばやし・よしみつ 東大大学院修了。1974年三菱化成工業(現三菱ケミカル)。三菱ケミカルホールディングス社長を経て、2015年4月から会長。15年4月に経済同友会代表幹事就任。71歳。山梨県出身。