人手不足 キリン、AIで開発時間短縮

 

 大手企業では人工知能(AI)に技術や知見を学習させ、若手社員への技術伝承に使う動きが広がっている。熟練工の力の加減や作業中の音を記憶させたロボットを操作させ、作業感覚を身に付けさせることもできる。

 「もっと食事に合う味に」「麦のうま味を残しつつ、すっきり飲めるものを」。キリンビールの商品開発研究所の稲葉貴章研究員(41)は、マーケティング担当者からの注文を受け、看板商品「一番搾り」をどう進化させるか悩んだ。

 データベースに蓄積された約20年分のレシピを見ながら目指す味に合うホップを探し、麦芽の糖分の量を調整するなど工夫した。「限られた材料で、シンプルに作るからこそ難しかった」。試作しても苦味やアルコールが強く出てしまった。納得できる味ができ、7月に刷新して発売するまで2年がたっていた。

 だが稲葉氏の苦労もこれからは減るかもしれない。キリンは三菱総合研究所と共同で、新商品の開発にAIを役立てられるか検証中だ。消費者の好みの移り変わりが加速し、開発の効率を上げる必要があった。新人の開発担当者の早期育成につなげる狙いもある。

 現在、商品開発研究所に配属された研究員は酒税のルールや新商品が誕生するまでの流れを座学で学んですぐ、実際の開発に着手する。

 失敗しながら味づくりの勘を磨いていく。センスも問われ、個人の力量次第で開発までの時間に差が出ていた。

 開発中のAIには過去の大量のレシピを学習させ、原料の配合や煮る温度などの条件を入力すると、甘味や苦味の成分量が推定できる。試作の前に味の予測ができ、新商品への近道ができる。

 ただ、AIにも限界がある。繊細な味や香りの違いを認識できないことだ。

 酒類技術研究所の土屋友理研究員(31)は、作りたい香味に近づいているかを確かめる官能検査に携わる。

 ホップも、品種や配合によって幾通りもの香りが生まれるため、勤務後もビールを飲み、味覚や嗅覚を研ぎ澄ます訓練を続ける。「AIで開発への時間は短縮できる。だが最後は人間の感性が問われることには変わりない」という。