【京都発 輝く】日本の食、世界へ発信 「世界一小さな缶詰工場」カンブライト

 
「日本一小さい」と自認する缶詰工場で試作品をつくる社員ら=2017年12月13日、京都市中京区のカンブライト本社(西川博明撮影)

 創業3年目の食品関連ベンチャー、カンブライト(京都市中京区)は、缶詰など長期間常温で保存できる加工食品の開発支援を行うコンサルティング会社。究極の目標は、缶詰を通じて日本各地の農漁業などの活性化を図り、国内の食糧事情を豊かにするとともに、日本の素晴らしい食材を世界へ発信していくことだ。

 テレビを見て起業

 2015年6月、IT関連企業でソフトウエア開発の仕事をしていた井上和馬氏(現カンブライト社長)は、大阪府豊中市の自宅でテレビを見ていた。

 「これは、すごい」-。愛媛県で地域活性化ビジネスを行うエイトワン(松山市)を紹介する番組だった。

 息子3人がいる井上氏には「日本の食料自給率は将来、大丈夫か」という思いがあった。そこでエイトワンのホームページに「社会起業家募集」という告知を見つけ、刺激を受けた。同社の大藪崇社長に「日本の食を担う1次産業(農漁業)を盛り上げるには、常温保存でき、世界へ輸出できる缶詰しかない」とプレゼンテーションし、起業時の資金融資の約束を取り付けた。

 突然の「脱サラ」に、妻は反対。エイトワンから当面、最低限の給与が支給されるとはいえ、月収は約3分の1に下がる。しかし「妻は『結局、やるんでしょ』と諦め半分だったが、今は会社の経理をしてくれている」(井上氏)と一定の理解を得た。テレビ放送から約2カ月半後の15年9月、カンブライトを創業した。

 創業後、東洋食品工業短大(兵庫県川西市)の社会人講習を受講して缶詰の基礎を学ぶ一方、缶詰の試作に奔走した。

 翌16年8月、京都の「食の台所」錦市場近くに物件を見つけ、本社と直営店「カンナチュール」をオープンした。しかし、缶詰づくりは“素人”同然。思うような商品ができず、起業の壁にぶち当たる。「作った缶詰を500円程度で販売していたが、原価はほぼ販売価格に近い状態で、原価計算すらできていなかった」(井上氏)

 アルバイトも雇い、支出は増える一方で、眠れない日々が続いた。約2カ月悩み、ビジネスモデルの転換を思いつく。

 日本の食を海外へ

 同社の強みは、缶詰を小ロット(1~200個単位)で試作できる「世界一小さな缶詰工場」(井上氏)を持つ点だ。

 ソフト開発で培った手法を応用し、日本各地の農漁業者や自治体、企業などの相談に乗り、地域の食材を缶詰にする開発コンサルティングに切り替えることにした。こうすれば、会社の資金を使わず、やりたい事業を実現できるとひらめいたのだ。

 運良くテレビ番組などで会社が紹介され、知名度が向上。この1年で、営業をしなくても開発依頼が寄せられるようになったという。

 同社のビジネスモデルでは、缶詰の試作による相談費用に加え、開発した缶詰の売上高の一定割合を報酬として受け取る。創業3年目の18年7月期の売上高は3500万円を計画し、初の黒字を目指している。

 カンブライトが果たす役割として、井上氏は「1次生産者が挑戦できるプラットフォームを作り、海外へ日本の食を広げること」と強調。こうした夢の実現へ、今年は新たな事業展開も加速する。

 まず缶詰の海外展開。昨年11月に発売したペースト状の「牡蠣(かき)みそ」は3月から台湾へ輸出することが決まった。また、IT業界での経験を生かし、今春をめどに缶詰工場を運営するノウハウを詰め込んだソフトの販売にも乗り出す。

 あくまで缶詰業界の“黒子”に徹しながら、日本の「食」を世界へ発信していく。(西川博明)

【会社概要】カンブライト

 ▽本社=京都市中京区中魚屋町508 ロマーネ高倉1階 ((電)075・205・5056)

 ▽設立=2015年9月

 ▽資本金=1000万円

 ▽従業員=5人(17年12月現在)

 ▽事業内容=缶詰など加工食品の開発コンサルティングや製造・販売支援

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 □井上和馬社長

 ■ソフト開発の手法で軌道修正重ねる

 --脱サラ創業のきっかけは

 「もともと食に興味があり、世界で日本が誇れるのは『食』だと思った。日本の1次産業を盛り上げるためには、やっぱり世界の流通に日本の食文化をもっていかないといけない。必然的に缶詰だということになった」

 --なぜ京都で起業したのか

 「世界で缶詰を売るときに、メード・イン・京都というのが欲しかった。最初から世界へ缶詰を売るには京都のブランドの方が、大阪のブランドより評価が高くなる」

 --ITの専門家として、畑違いの仕事では

 「全てが手探り。農家を回って食材を探し、缶詰の試作をしていた。今でも缶詰のことで分からなければ、通った短大の先生に教えてもらう」

 --現在は創業3年目。2018年7月期の目標は

 「事業を黒字化し、親会社(エイトワン)の融資がなくても自分たちで事業を走らせることができる段階にもっていく」

 --缶詰開発の難しさは

 「プロの料理人にレシピを監修してもらい、試作段階で『こんなの食べたことがない』と評判になるが、缶詰にすると味が変わり、別物になる場合がある」

 --一昨年10月から缶詰の試作を請け負う事業に切り替えた

 「お客さんが食材やレシピを持って来られ、1個ずつ試作品をつくれば、お金をもらいながら、缶詰の開発ができる。ソフトウエア開発のように、軌道修正しながら製品開発する手法を取り入れた。僕たちなら小ロット(200個単位)から缶詰を作れる強みを出し、開発依頼が増えた」

 --仕事の醍醐味(だいごみ)は

 「支援する農業・漁業関係者たちが喜んでくれ、どう利益が出るか。そうしたビジネスモデルをデザインするのが一番面白い。日本の食卓を豊かにしたいですね」

【プロフィル】井上和馬

 いのうえ・かずま 大阪工業大情報科学部卒。情報技術(IT)関連の企業3社でソフトウエア開発の仕事などを経験。2015年にカンブライトを創業し、現職。39歳。大阪府出身。

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 ≪イチ押し!≫

 ■かにみそのような「牡蠣みそ」

 京都の食の台所・錦市場近くにある本社併設の直営店「カンナチュール」(京都市中京区)では、創業以来開発してきた商品約60種類を販売する。

 1番人気は昨年11月、生カキ販売のマルト水産(広島県福山市)と共同開発した新製品「牡蠣(かき)みそ」(95グラム入り、1500円)。瀬戸内海産の大粒のカキ「珠(たま)せいろ」を蒸してペースト状にし、かにみそのような味わいという。約8カ月かけて開発した自慢の逸品で「いろんな料理、お酒と組み合わせて楽しんでいただきたい」(井上和馬社長)。外食店に卸売りも行い、月1万個の販売を目指す。

 お酒のあてにピッタリなのが、京都府京丹後市の特産品・さばへしこを使った缶詰「青春アヒージョ(ハーブへしこのオイル煮)」(85グラム入り、750円)。同社のネット販売では売り切れも目立つ。