【木下隆之のクルマ三昧】レーシングドライバーに資格は必要? 実は誰でも「プロ」を名乗れるが…
「レーシングドライバーを仕事にしたいのですが、資格は必要ですか?」
こんな相談を受けることがある。レーシングドライバーに憧れ、将来の進路に選んでくれたことを嬉しく思う。
その反面、答えに窮することがある。というのも、レーシングドライバーにはプロとアマチュアの明確な線引きがないからだ。
◆レーシングドライバーと名乗ったもの勝ち
プロ野球選手ならばプロの12球団のどこかと契約すればプロ野球選手となる。ボクシングやゴルフならば明確なプロテストがある。そこでの合否がプロとアマチュアの厳格なさかいである。
だがレースにプロテスト制度はない。よって、明確なプロ資格がない。僕もプロライセンスを所有してもいないし、プロとしてどこかの協会に登録されてもいない。つまり、レーシングドライバーと名乗ったもの勝ち。実際に、実績のない無名なドライバーがレーシングドライバーの肩書きで商売をしている。レース界はまだ未成熟なのかもしれない。
レーシングチームとレース契約すればプロという考え方もある。だが逆に、チームに所属していなくとも高度なスキルを持ち高額の収入を得ているドライバーもいる。
JAF公認のA級ライセンスを所持していればプロか? そうとも限らない。というのも、そもそもレースに出場するためにはA級ライセンスが必要なのだ。つまり、レース未経験者に発給されるのがA級ライセンスなのだ。
レースに参戦して賞金を獲得すればプロだという考え方もある。だが、入門用のアマチュアレースでさえ、表彰台に立てば5万円だとか10万円だとかの賞金を手にできる。だから賞金の有無だけでプロか否かは判断できない。
◆だから自称プロドライバーが現れる
全日本選手権、あるいは大勢の観客が訪れるメジャーレースに参戦していればプロレーシングドライバーと名乗れる…というのとも、ちょっと違うような気がする。というのも、レース好きの富裕層が趣味で、自ら身銭を切ってトップカテゴリーに参加している例もある。サーキットを離れれば一人の優秀なビジネスマンであり、そこで稼いだ資金を余暇に投じて趣味のレースに参戦している。その御仁を持ってプロドライバーと呼ぶのははばかられる。ゆえに、参戦カテゴリーや経験だけでプロドライバーと決めつけられない。
契約金の有無はどうだろう。ん~、契約金を手にできればプロのレーシングドライバーと名乗っていいのかもしれない。勝敗に関わらずギャラが約束されているドライバーのことをプロのレーシングドライバーと判断する。ここが一つの定義のような気がする。
ちなみに、実績が曖昧でありながらもサーキット走行会や自動車体験会にレーシングドライバーを名乗るドライバーがいる。彼らのことを業界では「走行会レーサー」と呼んで「レーシングドライバー」と区別している。
とまあ、職業人としてのレーシングドライバーとは実に曖昧なのだ。だから自称プロドライバーが現れるのである。
◆厳格に線引きをする必要はない?
もっとも、それほど厳格に線引きをする必要はないのかもしれない。日曜日にゴルフをするような気軽さで趣味のレースに参戦する姿も微笑ましいし、勝った勢いでレーシングドライバーの肩書きの名刺を配っても許される。
地位も名声もなく、その肩書きで商売をするのには抵抗があるが、まあ、そもそも資格制度がないのだから、本人が恥ずかしくないのならば許されるのかもしれないね。
というわけで、冒頭の質問へ回答するとするならば、こんなところだろうか。
「誰でもレーシングドライバーになれますよ。まずA級ライセンスを取得してレースを始めてください。成績が備わってくればおのずと契約金が付いてきます。そう、その時あなたは、プロのレーシングドライバーなのです」
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【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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