【木下隆之のクルマ三昧】EV、PHV、FCV…本命は? 次世代パワートレーン覇権の行方

 
日産のEV「リーフ」

 平成が終わろうとしている今の時代、自動車の世界は革命期を迎えている。動力が電気モーターになり、運転席に人のいないクルマが走り出そうとしている。人々の移動手段をクルマが馬から奪ったような、100年に一度の大変革期が訪れようとしているのである。

 このところ、新聞を開けばたいがいEVの記事が踊る。イギリスとフランスが2040年までに化石燃料車の販売禁止を発表したことに端を発し、パリ協定で足並みを揃える欧州各国がそれに追従。控えめな日本も、2030年にはEV・PHV比率を保有台数シェアで16%にするとロードマップで掲げた。

 ◆EV時代はすぐに来る?

 まだEV比率は1%にも満たず、EV時代は近未来ではないのに、「EVであらずはクルマであらず」かのような狂乱だ。追い討ちをかけたのは巨人トヨタの新戦略だ。パナソニックと電池生産の子会社を設立。2050年にはガソリン車をほぼゼロにするとの発表が一気にリアリティを高めたのだ。

 ただ、そんなにすぐにEV時代が到来するのだろうか? 我々にはまだ高性能なガソリンエンジンがある。EVといっても、究極のエコ燃料だとされているFCV(燃料電池車)もある。ガソリン併用のPHV(プラグインハイブリッド車)もある。ガソリンエンジンを発電機能とするレンジエクステンダーもある。どれが本命かわからない。先行きは混沌としているのである。

 ◆EVの長所と短所

 EVにもメリットとデメリットがある。走行中のCO2がゼロであることが、EVが善とする最大の理由だが、実は充電コンセントの先はCO2を撒き散らす発電所とも繋がっている。一気にEV需要が増せば、石油をもっと燃やさなければならないし、もしくはリスク覚悟で原発を稼働させることも考えないといけない。

 そもそも充電時間が長いことや航続距離が短いという問題もある。が、これには肯定的だ。充電ステーションはガソリンスタンドを設置するより簡易だから普及は早いだろう。電池の性能は日進月歩だ。トヨタはリチウムイオン電池よりも数倍の密度を誇る全固体電池の開発を急ぐと発表した。そうなれば、充電は早く航続距離も飛躍的にのびる。人間の叡智がそれを一つずつクリアしていくであろうことを前提にEV時代の到来を予測しているのである。

 ◆FCVの将来性は?

 では、EVの一つでもあるFCVの将来性は? 自ら発電しながら走行するFCVは、ガソリンの代わりに水素をタンクに詰め込む。EV同様、走行中は一切のCO2を排出しない。口をあてれば飲めるような真水を排水管からポタポタと滴らせるだけなのである。イメージ的にも実際にも、環境性は優れている。

 ただ、その水素はどこで補充するのか。水素ステーションが必要なのである。しかも水素を生成するのにはCO2発生は避けられない。電気同様、元を手繰ればCO2発生はゼロではない。そう、EVもFCVも地球の救世主ではなく、しばらくは茨の道を歩まなければならないのだ。

 ◆ガソリン車でもEVと戦える

 ガソリンエンジン開発の手を緩めないマツダは、ピュアなガソリン車でもEVと戦えることを示そうとしているし、日陰の身だったロータリーエンジンをレンジエクステンダーとして生かすつもりである。エンジンで駆動するのではなく、あくまで発電装置としてそれを活用するレンジエクステンダーは、日産ノートe-Powerの爆発的ヒットが証明するように、現代に即している。

 遠い将来のCO2ゼロカーが誕生するまでは、レンジエクステンダー、もしくはPHVが橋渡しをすることはあきらかだ。ガソリンエンジンと電池との併用時代が続くのである。

 欧州各国が華やかな目標を掲げてはいるものの、ガソリン車消滅を語ってはいない。EV比率の大幅な引き上げのために国が積極的な支援をするとは公言するものの、ガソリン車消滅は誰も断言していないのである。

 ◆誰も確信がないのが本音

 ガソリンを積んで走るレンジエクステンダー、もしくは家庭のコンセントや充電ステーションでバッテリーに電力を蓄えEV走行を続け、空になったらガソリンエンジンで駆動するPHVが、現在の生活に親和性がある。

 正直に言えば、将来の本命が何になるのかは、誰も確信がないというのが本音だ。だから体力のあるメーカーはあらゆる可能性に策を打っているのだ。

 ひとつ言えることは、ユーザーである僕らは、多くの選択肢の中から好みの動力源を選べるという恵まれた環境にいるということだ。自らの生活スタイルと照らし合わせて、好きなクルマを選べるという夢のような時代に生きていることは確かなようだ。

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【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。

【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。