地球温暖化の漁業被害年100億ドル

 
捕らえた大きな魚を運ぶマダガスカルの零細漁業者。地球温暖化の影響は熱帯域で大きいと指摘されている=2008年、マダガスカル・モロンダバ近郊(共同)

 「地球温暖化が今のペースで進むと、その影響で世界の漁業が被る損害額は年間100億ドル(約1兆1000億円)に達する可能性がある」-。昨年12月、都内で開かれた「海の限界」と題するシンポジウムでカナダ・ブリティッシュコロンビア大のウィリアム・チェン准教授はこのようなコンピューターシミュレーションの結果を発表した。

 チェン准教授によると、大気中の二酸化炭素濃度の上昇は海水温の上昇や海洋の酸性化、酸素レベルの減少などを通じて漁獲量の減少を招く。70種を超える主要な魚種について、各国の漁獲量などのデータを基に行った解析で、漁業が被る損害額は最大年100億ドルに達する。

 影響は熱帯域で大きく、漁業に依存している南太平洋の島国などでは国の経済への打撃や食糧、栄養問題の深刻化などが懸念されるという。

 解析によると、世界の平均気温が1度高くなると世界の魚の漁獲量は約340万トン減る。チェン准教授は「温室効果ガスの排出量を大幅に減らし『産業革命以来の気温上昇を1.5度にすることを目指す』というパリ協定の目標が達成することは世界の漁業や海の生態系にとって大きな利益をもたらす」と指摘した。

 シンポジウムは、日本財団とブリティッシュコロンビア大が共同で進める国際海洋研究「ネレウスプログラム」の主催。

 シンポジウムでは、海の深い部分から栄養分を多く含む海水を表面近くにまで運び、魚の成育に大きな役割を果たす「湧昇流」が地球温暖化によって弱くなり、イワシやカタクチイワシなどの食物連鎖を支える小形の魚の資源に影響を与える可能性があるとの研究結果も発表された。

 日本近海でも地球温暖化が原因とみられる海水温の上昇は進んでおり、暖かい海の魚の分布域が北上し、取れる魚の種類が変わっていることが報告されている。

 温暖化が進むと太平洋のサンマの漁場が東に移動するなどして漁獲量が減ることや、サケの生存に適した海域が北上して、漁獲量が少なくなるとの予測結果も発表されており、温暖化による海水温の変化が、サンマやサケの不漁と関連しているとの指摘は多い。

 プロジェクトを統括する太田義孝・米ワシントン大助教授は「海の生態系や漁業資源は、気候変動や乱獲、海洋酸性化、プラスチックなど陸上からの汚染物質の流入など多くの問題に直面している。総合的な対策が急務だ」と話している。