【木下隆之のクルマ三昧】意外に知らない? ディーゼル車で軽油の「種類」を間違えると雪国で…
今年の冬は、日本列島は記録的な大寒波に見舞われた。降雪地帯はもちろんのこと、関東地方も大雪が降った。それもシャーベットのような水分を多く含んだ雪ではなく、固く締まった粉雪が都心の空を舞った。雪への耐性のない都会っ子は、大いに混乱したのである。
そんな大寒波のある日、ちょっとしたトラブルが起こった。自動車雑誌の企画で雪国にドライブへ行ったのだが、前日の夜に宿泊地に宿をとり、翌朝取材に出かけようとしたら、取材車だったディーゼルモデルのエンジンが始動しないとアルバイト君が頭を抱えている。
「エンジントラブルです。どうしましょう」
顔面蒼白なのだ。
だが、すぐに原因は判明した。ディーゼル燃料が凍ってしまったのだ。そう、アルバイト君は昨晩の東京を発つ時に、燃料を満タンにして来ていた。だがその軽油は寒冷地仕様ではなく、外気温マイナス15度にも達した雪国では機能しなかったのである。
そこでこのコラムのネタを思いついた。関東地方出身のアルバイト君は、軽油が凍結しやすいことも、寒冷地仕様の軽油の存在も知らなかったのだ。この機会に伝えておかなければならないぞと思ったわけである。
◆日本に流通している軽油は5種類
実は日本に流通している軽油は5種類ある。「流動点」と呼ばれる燃料としての粘度が保たれる最低温度がJIS規格で定められており、流動点が高い順に(つまり粘度が硬い順に)「特1号」「1号」「2号」「3号」「特3号」に分かれている。「特1号」は摂氏5度、「特3号」は摂氏マイナス30度に設定されているというのだ。関東地方の夏は「特1号」、冬は「2号」、そして真冬の北海道は「特3号」が流通しているという。
つまり、アルバイト君が翌日の取材のために東京のガソリンスタンドで満タン給油して来た軽油は、取材先のマイナス15度ではトロトロになり、着火には至らなかった。本来ならばマイナス15度に耐えられる「3号」を給油しなければならないというわけである。
軽油に寒冷地仕様があることは、少なくとも関東地方の人は意外に知らない。ガソリンスタンドにもはっきりと告知もしていないから、なかなか浸透していない。降雪地帯のユーザーには常識かもしれないし、ディーゼルエンジンを搭載するクロカン4WDでスノードライブを楽しむ人達ならば百も承知なことかもしれない。だが、普段ガソリンエンジンを乗り回しているユーザーには(ガソリンエンジン用の燃料は凍らない)、寝耳に水のようなのである。
◆燃料は満タンにしない
そんなだから、もし関東地方からマイナス15度に達するような降雪地帯にディーゼルモデルでドライブするとしたら、目的地まで辿り着けるだけの燃料を積んで、つまり満タンにはせずに、目的地付近のガソリンスタンドで給油する必要がある。ちょっと面倒だけれども、翌朝目覚めてからいざドライブに出かけようとして立ち往生するのも残念だから、少しは気を配る必要があると思う。
もっとも、軽油が規格外であっても、諦めてはならない。スターターを回しているうちに、いわゆるグロープラグでのヒートアップに似た状態になり、始動することがある。日頃からバッテリーのメンテナンスをしていれば、セルモーターも簡単には音を上げないように、よほどの寒冷地でなければ始動する可能性もあるのだ。
北陸を中心にした記録的寒波の日、国道で1500台ものクルマが立ち往生したという。そんな報道をみると、冬を乗り切る知識を持っていた方がいいと思った。
◇
【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
関連記事