旅行は日帰り、居眠り事故…兼業ライターが建設現場の惨状“告発” 「週休2日」など夢物語だ
インターネット通販の「送料無料」の裏に宅配便ドライバーの苛酷な労働があることが近ごろにわかに注目の的となり、業界最大手のヤマト運輸が運賃値上げを荷主に求めるなど、構造的に立場の弱い運輸業の側から待遇改善の声が挙がるようになってきた。土日も祝日もなく朝から晩まで働きづめという印象の強い運輸業だが、そうしたネガティブイメージで「三家」に連なるのがサービス産業と建設業だ。
厚生労働省の就業条件調査を見ても、完全週休2日を確保している企業は全産業では72.9%であるのに対して、運輸業では30.7%、宿泊・飲食サービス業が30.9%、建設業が36.5%と、まさしくワースト3となっている(2017年調査統計より。パートタイムを除く全常用雇用者が対象)。
人手不足が深刻で、働き方改革が叫ばれるいま、まともに休めない状況を放置したままでは若者の就職先選びで敬遠され、産業としての将来性に赤信号が灯りかねない。
そうした状況を受けて日建連(日本建設業連合会)が東京五輪後の2022年3月期までに施工現場を週休2日制に移行する方針を固めているし、「週休2日制確保モデル工事」が国土交通省の各地方整備局のもとで進められてもいる。
◆警備員バイトの筆者が知る重い「現実」
筆者は日給月給の警備員アルバイトもしている兼業ライターだ。白い鉄板で囲われた建設現場でダンプや生コン車の誘導をする日もある。現場を知る人間として言わせてもらえば、建設業で完全週休2日なんて北欧の福祉制度なみに遠い世界のこととしか思えない。
実際、完全週休2日ないし4週8休の現場は国交省調査で5.7%、日建連調査でも8%しかないのに対して、4週5休以下がそれぞれ77.7%、83%と大多数を占めている。国交省関東地方整備局によるモデル工事でも、週休2日を完全確保できたのは全体の7割にとどまったという。
建設業が土曜日に休めないのは、現場閉所日の増加がコスト上昇に直結するからだ。
日建連が会員企業52社を対象に行った調査によれば、完全週休2日制を導入した場合、工事原価が7%以上上昇すると回答した企業が26社と最多だった。5~7%上昇するとの回答は17社だった。あいだを取って6%の上昇と考えても、単純計算で3500万円の新築戸建て住宅が3710万円になってしまう。“差額”でマイカーの買い換えができてしまうのだ。はたして消費者の側に、それだけの負担増を受け入れる心の余裕があるだろうか?
このように、建設現場を土日休みにすることへのハードルは高い。しかし、宅配便ドライバーの激務に同情する世論に支えられて運輸業界に待遇改善の風が吹いたように、東京五輪関連工事に注目が集まって建設業界にも風が吹く可能性はあるし、いつまでも現状のままなら業界に明るい未来は描けない。
◆下請作業員の労賃はモノ扱い?
では、どうすれば建設業界を変えられるのか? それには現場の生の声を聞くのが一番だと、今回、「施工の神様」という建設業界向けのメディアサイトに協力を依頼した。同サイトには建設現場で働く技術者が執筆陣に名を連ねている。同サイトのライター各氏と編集部、そして土木学会の「若手パワーアップ小委員会」から、この問題についての意見を聞いた。
建設業が土曜日に休めないのは、工事原価上昇につながるからだと先に述べた。どういうことか? まずは建設業の原価構成のグラフをご覧いただきたい。
この棒グラフで40~60%を占める「外注費」に、(下請企業の労務費を含む)という補足説明があるのがおわかりだろうか? つまり、建設産業従事者の大部分を占める下請労働者の賃金は独立項目として扱われず、ダンプや重機のリース代などと同列の外注コストに組み込まれているのだ。
要するに、悪く言えば(下請作業員の労賃は)モノ扱いだ。そのせいか、下請企業はモノのコストと同列に労賃を節約することで利益を出そうとする。日建連資料によれば、建設技能者の6割以上が日給制だという。パートやアルバイトと同じく出勤日分の賃金しか支払わないことで、労賃を抑えているわけだ。
◆「恨みの雨」も現場に追い打ちをかける
建設現場を土日とも休みにすると、月間の稼働日が4~5日減り、それが積み重なって全体の工期が延びていく。ダンプや重機のリース代は休みの日にもかかってくるから、工期延長による負担増を下請業者が嫌がる。だから土曜日にも現場を動かしてできるだけ早く竣工しようとする。
建設業では雨による休みも見込まねばならないからなおさらだ。21世紀にもなって雨ごときで…と他業種の方は驚かれるかもしれないが、たとえば、まとまった降雨量のある日の生コン打設は構造物の出来形上よくないため、その日の作業は延期せざるをえない。日給月給の作業員は雨による休業日には無給になるため、その穴埋めのためにも週6(日の勤務)で働かなければ食っていけず、土曜日の休みを喜ぶどころかむしろ嫌がる。
とはいえ、日曜日しか休めないことはワークライフバランス上で大きな損失だし、建設業ではすれ違いによる離婚も少なくないという。では、現実に建設現場で働く人にはどのような悩みがあるのだろうか?
◆「波待ち」できずにサーフィンを断念した人も
「建設業はまったくと言っていいほど連休とは無縁の世界です。そのせいで家族旅行でも日帰りしかできず、趣味でリフレッシュする機会も限られます。サーフィンが趣味の知り合いがいて、最初は日曜日ごとに遠くの海までクルマを飛ばしていたのですが、よい波が来ずに乗れない日も多く、一日だけの休みを波待ちに費やすことに限界を感じて、サーフィンはやめてしまいました」(「施工の神様」ライターのJack氏〔地域建設会社勤務〕)
「単身赴任時に、福井から千葉までの600kmを土曜日の終業後にクルマを飛ばして帰っていましたが、居眠り運転をして事故を起こしてしまいました。土曜日に休めない会社として妻の実家からよいイメージを持ってもらえず、まわりを見ても、同様の理由から婚期が遅れがちです」(土木学会の若手パワーアップ小委員会メンバー〔ゼネコン勤務〕)
このように、高収入の正社員にも土曜日に休めない問題はのしかかり、業界全体のイメージ悪化につながっていることがわかる。では、どうすれば完全週休2日は実現できるのか。
◆ゼネコンは「高い金払うのだから工期縮めろ」と“圧力”
発注者に対して立場が弱く、身を削って要求を呑むしかないことが建設業界の問題点だ。だから、強制的に現場を土日休みにするしかないと、関係各氏は口をそろえる。
「ある建設関係者から聞いた話なのですが、高い金を支払うのだから工期は極力短くという発注者からの要望にゼネコンが従うしかないのが問題で、お客が変わらなければ何も始まらないというのが実感だそうです。しかし、公共工事ならば話は別です。まずはお役所が発注する公共工事から、土日が休みであることを契約時に明示するなどの変革を進めていくことだと思います」(「施工の神様」編集長の清水清氏)
「休む環境をつくるには強制力しかない。それは、現場を運営する元請次第です。国は週休2日を推進しています。土日休工は元請采配で決まりますので、元請が休むと言えば下請けは休まざるを得ません。請負業の下請けは仕事をしたがるかと思いますが、強い気持ちで断ることが肝心です」(「施工の神様」ライターの博多のスーパー土木作業員GOD氏〔大手ゼネコン勤務〕)
まずは公共事業の発注者であるお役所が意識を変える。それを受けてゼネコンも変わる。それが広く浸透することで、下請業者にもやがて変化がもたらされるという道筋だ。
◆「材料費」にメスを入れるべき
しかし、前述のように建設技能者の6割以上は日給月給の非正規労働者だ。週休2日の実現には彼らの総収入を減らさないことが不可欠だと日建連も主張する。土曜日も休みにして週5日稼働にした場合、単純計算で日給は従来の1.2倍になる。そのコスト増をどこで吸収するのか。
「材料費の見直しが鍵になると思います。発注者や県の担当者などは材料費を下げることによい顔をしませんが、指定材料以外を用いても強度の問題もなくコストを削減できる施工方法はいくらでもあります。しかしそれが許可されず、やむなく従来の施工をすることが非常に多い。それが、施工員の日給単価が上がらないことにつながっているのだと思います」(Jack氏)
なるほど、材料費から下請労務費へのシフトは待遇改善へのひとつの処方箋となりそうだ。前掲のグラフでも材料費は原価全体の2~3割を占めているから、削減の余地も少なくはない。
また、意識改革の一環として、見た目のイメージ改善を唱える声もある。
◆ヘルメット姿の女性をドラマに登場させよ?!
「海外、それも北欧の建設作業員はカラフルな服装をしていてカッコいい。新入社員の頃を思い返していちばん嫌だったのは現場のトイレが汚いことでしたが、仮設トイレを見違えるようにきれいにして、小学生の現場見学を多く受け入れ、さらにテレビドラマの舞台にでもなれば、よい意味で全体のイメージアップ、意識改革につながっていくのではないでしょうか」(前出の若手パワーアップ小委員会メンバー)
缶コーヒーのテレビCMなどで俳優が建設作業員に扮するものはあるが、ドラマとなると確かに記憶がない。警備員の実感としても現場で働くゼネコン社員に若い女性が増えており、ヘルメット姿の女性がヒロインになるドラマがあってもよさそうだ。
日本の労働生産性がG7最下位であることは広く知られ、長時間労働と休日の少なさが元凶であるとよく言われる。その意味で、建設業は日本の労働環境の問題点が凝縮された、働き方改革が「待ったなし」の業界だとも言えそうだ。先進諸国が週5日でやっていることを週6日働いてどうにかこなす。それを建設業界がどう改めるのか。日本の国民性という背景も含めて、建設業界の変化の道筋には他業種の参考になることも多そうだ。(待兼音二郎/5時から作家塾(R))
《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。
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