「老舗」企業の破綻が止まらない 成功体験抜け出せず 新興企業も増え「寿命」も低下

 

 企業倒産に占める「老舗企業」の構成比は2011年以降、7年連続で30%以上を維持している。老舗は、長年の取引実績で信用を得ているが、金融機関が将来性などを判断して貸出を行う「事業性評価」に動き出し、成功体験から抜け出せず倒産に至るケースも多い。一方、「新興企業」の倒産は構成比は前年より上昇。国などが推し進める創業支援で事業を立ち上げても、経営計画の甘い経営者も少なくない。(東京商工リサーチ特別レポート)

 本調査は、2017年に倒産した8405件(負債1000万円以上)のうち、創業年月が判明しない1087件を除く7318件を対象に分析した。業歴30年以上を「老舗企業」、同10年未満を「新興企業」と定義し、業歴は法人企業が設立年月、個人企業は創業年月とした。

◆「日本型金融」の退潮も逆風に

 2017年に倒産した老舗企業は2288件(構成比31.2%)だった。構成比は前年より1.0ポイント低下した。企業倒産に占める老舗企業の構成比は2011年以降、7年連続で30%以上を維持している。

 老舗は、不動産や内部留保などの資産が厚く、長年の取引実績で金融機関や取引先の信用を得ている。ただ、金融機関が業績や個人保証、担保などに依存した「日本型金融」から、将来性などを判断して貸出を行う「事業性評価」に動き出し、環境が変化している。

 過去の成功体験から抜け出せず新たな取り組みに遅れたり、グローバル化や多様化するニーズのなかで新たな生産性向上への投資もできず、倒産に至るケースも多い。

 一方、新興企業の倒産は1793件(構成比24.5%)で、構成比は前年より2.1ポイント上昇した。国や自治体などが推し進める創業支援で事業を立ち上げても、一時のブームに乗っただけで経営計画の甘い経営者も少なくはなく、構成比を押し上げた。

◆3年ぶりに「平均寿命」が低下

 2017年に倒産した企業の平均寿命は23.5年。前年(24.1年)よりも0.6年低下し、3年ぶりに前年を下回った。

 2009年12月に中小企業等金融円滑化法が施行され、業績不振に陥った中小企業は金融機関への返済条件の変更(リスケ)で資金繰りが一時的に緩和した。しかし、2013年3月に同法の終了後も金融機関がリスケ対応を継続し、苦境に陥っていた企業が倒産を免れ企業の平均寿命は伸び続けた。この結果、2010年(平均寿命22.4年)から2016年までの6年間で1.7年伸びた。

 2017年の企業倒産は、9年連続で前年を下回った。だが、参入が容易な飲食業、高齢化を見越して設立された老人福祉・介護業などの業歴の浅いサービス業他の倒産増加により平均寿命を引き下げたようだ。

 産業別の倒産企業の平均寿命は、10産業のうち、製造業、小売業、金融・保険業、不動産業、運輸業の5産業で前年よりも伸びた。平均寿命が低下したのは、農・林・漁・鉱業、建設業、卸売業、情報通信業、サービス業ほかの5産業。

 平均寿命の最高は製造業の32.9年(前年32.1年)で0.8年伸び、2011年(27.9年)から7年連続で前年を上回った。次いで、運輸業27.0年(同25.2年)、卸売業26.1年(同27.3年)の順。

 一方、平均寿命が最も短命だったのは投資業などを含む金融・保険業の16.4年(同14.4年)だった。

◆製造業の苦境が際立つ

 2017年に倒産した企業で、老舗企業の構成比を産業別にみると、最高は製造業の52.9%(前年51.6%)で半数を占めた。以下、運輸業40.9%(同32.3%)、不動産業36.9%(同31.0%)と続き、10産業のうち、6産業が前年を上回った。

 製造業は、輸出企業を中心に大手企業が好業績をあげる一方で、倒産した企業は小・零細企業を主体にしている。資金繰りに余裕が乏しいうえ、人材確保による人件費上昇、経営者の高齢化による事業承継難など、取り巻く経営課題に対応できなかった企業が少なくない。

 一方、業歴10年未満の構成比は、金融・保険業44.7%(前年40.9%)が最も高く、サービス業他37.6%(同33.4%)、農・林・漁・鉱業36.2%(同26.6%)と続く。老舗企業で構成比トップの製造業は8.7%(同9.8%)と、業歴10年未満では唯一10%を下回った。

 業歴10年未満で構成比がトップの金融・保険業は、低金利のなかで高配当などを謳って出資金を募るビジネスモデルに無理があった投資(資産)運用会社などが散見された。

◆老舗企業は四国に多く九州で少ない

 2017年の老舗企業の地区別の構成比は、最高は四国の43.7%(前年45.4%)。前年より1.7ポイント低下したが、4年連続でトップとなった。

 次いで、中国42.4%(同43.1%)、北陸39.0%(同36.4%)、東北38.7%(同43.1%)、北海道36.4%(同34.7%)の順。構成比が最も低かった九州は24.4%(同27.8%)と前年より3.4ポイント低下した。

 四国は、上位10位内に香川県(5位、構成比47.2%)、高知県(8位、同44.4%)の2県が入り、11位にも徳島県が44.1%と続いた。

 2017年の社長平均年齢は、高知県が63.5歳と全国最高で、徳島県、香川県も全国平均(61.4歳)を上回った。四国4県平均では61.9歳と東北に次ぎ2番目に高く、後継者や事業承継などの問題が深刻な状況が垣間見える。

 一方、九州は下位(沖縄県47位、長崎県46位、福岡県45位、鹿児島県44位、大分県38位、熊本県37位)に集中した。

 2017年の老舗企業の都道府県別の構成比は、新潟県が56.5%(前年46.5%、12位)で最高だった。次いで、秋田県52.7%(同52.7%、4位)、鳥取県52.3%(同42.4%、14位)と続く。

 一方、最低は沖縄県で17.6%(前年16.6%、47位)。老舗企業が少なく、18年連続で全国最低だった。ただ、倒産企業の3件に1件は業歴10年未満で、事業の継続性に課題を抱えている。

◆見逃せない人口減少との関係

 老舗企業の構成比が前年より上昇したのは、17道府県(前年20都府県)。奈良県は前年比13.8ポイント上昇と上昇幅が最も高く、次いで、石川県が同10.3ポイント上昇、宮崎県が同10.2ポイント上昇と続く。老舗企業の倒産構成比が高い地域は、人口減少率が大きく新設法人の割合が低くなる傾向がある。

 老舗企業は長年の信用と実績を背景にしているが、中小企業の多くは経営者の高齢化、後継者問題など事業承継に課題を抱えている。経済環境の変化は速く、時代に即応した経営者能力が求められている。

 代表者の平均年齢が高いほど業績悪化が加速するシビアな現実の中で、老舗企業は自社の強み・弱みなどの実態を見つめ直し、今後の経営にどう活かせるか問われている。新興企業も一時的なブーム頼りでなく、将来の資金計画を含めた地道な経営を求められている。

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