【茨城発 輝く】府中誉 日本酒の県産酒米を復活、品評会で金賞受賞
古風な町並みが残る茨城県石岡市国府。1854(安政元)年の創業以来、この地で酒造りを続ける「府中誉」の日本酒「渡舟」は国内外で高い評価を得ている。築約140年の建物内には、木製のおけなど伝統的な酒造用具が展示され、定番商品からこだわりの一品まで数種類の酒瓶が並べられている。
◆わずかな種籾から
府中誉で造られる日本酒の最大の特徴は、原料となる酒米だ。品評会で高評価を得る日本酒には「山田錦」という品種が使われることが多いが、府中誉の酒には「短稈(たんかん)渡船」という品種が使われている。
短稈渡船は病気に弱く、倒れやすいことなどから、昭和中期以降ほとんど育てられなくなった品種だ。実は、山田錦は短稈渡船と「山田穂」という品種を交配させて作られ、短稈渡船は山田錦の父方に当たる。
東京都内の酒類卸売会社を退職後、1989年に実家の府中誉に戻った山内孝明社長(55)は「誰も作っていない品種の酒米を県内で育てて、おいしい酒を造りたい」と考えた。
山内社長と短稈渡船の出会いは、ある男性の言葉がきっかけだったという。山内社長が府中誉に戻った頃、県内では酒米がほとんど栽培されておらず、山内社長は過去の栽培実績を調べていた。ある日、農業を営む80歳ほどの男性から「父と祖父が短稈渡船という酒米を作っていた」という話を聞いた。
その後、全国の研究機関などを探し回り、つくば市の農業生物資源研究所(現農業・食品産業技術総合研究機構=農研機構)に保管されていた種籾を入手。わずか14グラムの種籾から栽培を始め、徐々に作付面積を広げた。試行錯誤の末に92年、石岡市内で収穫した短稈渡船を使い、初めて大吟醸を仕込んだ。
それ以降も収穫を増やすとともに研究を重ね、96年には全国新酒鑑評会で初めて金賞を獲得。2017年には関東信越国税局酒類鑑評会で最優秀賞に輝くなど評判を広げていった。さらに、同年4月に行われた世界最大級のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2017」の日本酒部門純米吟醸酒の部で、金メダルを獲得するなど世界的な評価も高まっている。
◆多彩な風味を表現
山内社長は「短稈渡船から造られる酒は山田錦に比べてジューシーな味わいに仕上がる」と語る。県産の短稈渡船から造られる「渡舟」は、深い味わいを持ちながらも、造り方次第でさまざまな料理に合う風味を表現できるという。
酒造りの方向性は山内社長が決めているが、「短期間で変わる消費者の趣向に敏感になる必要がある」と考え、東京都内などで積極的に試飲会を開いている。その際、社員とともに客の反応をつぶさにチェックし、意見を出し合うことでより良い酒造りにつなげている。山内社長は「酒造りには正解がないからこそやりがいを感じる。思わず笑みがこぼれるような酒造りを続けていきたい」と語る。
府中誉の日本酒は現在、米国、香港、シンガポールのレストランなどに輸出されている。世界的な日本食ブームやIWCでの金メダル獲得などにより、輸出は伸びているという。山内社長は「今後は日本食だけではなく、さまざまな国の料理と合う日本酒の味を研究したい」と語る。背景には「日本食以外の料理と合う日本酒を造ることで、さらなる需要の拡大につなげられる」という考えがある。山内社長は「日本酒は作り手の工夫でいくらでも味のバラエティーを出せる。渡舟もまだまだ進化させられる」と意気込む。(丸山将)
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【会社概要】府中誉
▽本社=茨城県石岡市国府5-9-32((電)0299・23・0233)
▽設立=2002年5月
▽資本金=2000万円
▽従業員=10人
▽事業内容=日本酒の製造および販売
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□山内孝明社長
■子供育てるように丁寧な酒造りを
--酒造りと関係ない大学に進んだのは
「自分は長男なので、『いずれ家業を継ぐだろう』と思っていた。父も『酒造りとは違うことをやった方がよい』と背中を押してくれて、東京の大学を選んだ」
--その後、東京都にある酒類の卸売会社で3年間働いた
「卸売りの仕事を選んだのは、家業を継ぐ上で酒を売る側、買う側の両方の考えを知っておいた方がよいと思った」
--退社後は国税庁醸造試験所(現・酒類総合研究所)で日本酒造りの基礎を学んだ
「とても面白い場所だった。私のような酒造りの『さ』も知らない人間と、優秀な技術者が同じ試験所で学んでいた。かつて酒蔵の主人は酒造りを職人に任せていたが、今はとにかく造って売ればいいという時代ではない。飲んでくれる人の趣向の変化に敏感になって、酒造りに反映させる必要がある。造る酒の方向性を経営者である自分が決められるという点で、醸造試験所で学んだことが生きていると思う」
--全国的にもほとんど栽培されていなかった酒米「短稈渡船」を種籾から育て上げた情熱の原点は
「茨城県は農業も酒造りも盛んなのに、酒米は県産のものがないというのが寂しかった。そして『誰も育てていない酒米を県内で栽培できれば、茨城で面白い酒が造れる』と考えたのも大きかった」
--今後の目標は
「日本酒は製造工程が非常に大切。年ごとに気温やコメの出来などにも差があるため、ある年においしい酒ができたからといって、それで完成ということはない。品質向上のために工夫すべき点はまだまだたくさんあり、今より良い酒を造ることができるはず。地域の水とコメを使って、子供を育てるように丁寧に酒造りをしていきたい」
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【プロフィル】山内孝明
やまうち・たかあき 早大政経卒。1986年東京都内にある酒類の卸売会社に入社。89年国税庁醸造試験所(現・酒類総合研究所)で醸造技術を学び、実家に戻って酒蔵の経営に携わる。2002年府中誉を法人化し、社長に就任。55歳。茨城県出身。
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≪イチ押し!≫
■フルーティーな「渡舟 純米大吟醸」
茨城県産の酒米「短稈渡船」を磨き抜いて造られる「渡舟 純米大吟醸」は、技術の粋を詰め込んだ一品だ。府中誉のラインアップの中で、短稈渡船が持つ柔らかで豊かな風味を最も感じられる。
口に含むと上品でフルーティーな味わいが広がるが、後味はすっきりしている。湯葉刺しや白身魚の刺し身などシンプルな料理とともに飲むことで、酒の特徴である爽やかな香りと芳醇(ほうじゅん)さを余すことなく楽しむことができる。
短稈渡船の風味を最大限に表現するため、社員たちは原料の処理や発酵だけではなく、瓶詰めや火入れ、出荷の段階まで細心の注意を払って作業に当たっているという。
価格は4合瓶(720ミリリットル)が4860円、1升瓶(1800ミリリットル)が9710円。いずれも税別。
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