東芝メモリ売却が4月以降に…期限の23日までに中国の独禁法審査通過せず 「何が起こるか分からない」

 
新棟を建設中の東芝メモリ四日市工場=三重県四日市市(万福博之撮影)

 東芝の半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の売却が当初予定した3月末に完了せず、4月以降に持ち越される可能性が高まった。売却契約では平成29年度中の売却完了には3月23日までに各国当局の独占禁止法審査を通過する取り決めだが、中国当局からの承認が下りなかった。東芝は「3月末の完了をまだ諦めていない」というものの、極めて厳しい情勢だ。今後、株主から売却撤回を求める意見が強まり、波乱含みの展開になる可能性がある。

 「4月に入ると何が起こるか分からない」

 東芝関係者は売却手続きのもたつきで、経営再建の道筋が変わりかねない可能性を口にする。

 東芝は東芝メモリを米投資ファンドのベインキャピタルが主導する「日米韓連合」に売却する計画だが、3月末までに売却が完了しなければ、違約金なしに契約を解除できる規定が盛り込まれている。

 今後の焦点になるのは、東芝が昨年12月に実施した約6千億円の増資を引き受けて、新たに株主になった海外の投資ファンドの動きだ。

 「ドル箱事業を売る必要はない」。香港のファンド、アーガイル・ストリート・マネジメントは昨年12月、東芝に書簡を送った。ロイター通信によると、東芝メモリの売却額2兆円は事業価値を大きく下回っていると指摘し、子会社のまま新規株式公開(IPO)を目指すべきだと主張しているという。

 売却の当初の目的だった上場を維持するための2期連続の債務超過の回避は、大型増資によって既に実現できる手はずが整っている。それだけに、東芝に契約を解除できる権利が発生する4月以降のタイミングで、株主になった他の海外ファンドが追随しないともかぎらない。そうなれば、売却撤回を求める動きが勢いづくのは必至だ。

 「大多数の株主がそう主張すれば、無視はできなくなる」(東芝関係者)

 綱川智社長は2月の時点で「売却方針に変更はない」としていた。ただ、今や利益の9割を稼ぐ東芝メモリを手放すことの是非について社内が一枚岩ではなくなっているのも事実だ。東芝メモリは32年にもIPOを予定しており、「100%子会社のまま上場させた方が、客観的にみて効率は圧倒的に良い」と東芝幹部も本音を漏らす。

 とはいえ、東芝はそんなちゃぶ台返しが難しい事情も抱えている。取引銀行が債務超過の東芝に融資枠を設けたのは、東芝メモリの売却益が得られることを前提にしてきた経緯があり、「撤回なら借りたカネを返すのが筋で、相応の理由を説明してもらわなければならない」と牽制する。

 多数の関係者が参加し、数カ月かけてようやくまとまり、株主総会で承認を得た契約を「そう簡単に一方的に変えるわけにはいかない」(関係者)。

 東芝は増資で債務超過を回避できるが、1兆円超の売却益を得なければ、財務基盤には不安が残り、今後の成長戦略の足かせになりかねない。また、半導体メモリーで競争力を保つには年3千億円規模の設備投資が必要とされるが、今の東芝の体力では捻出するのは難しい。

 多くのステークホルダーの思惑が交錯し、再び混迷の度合いが強まってきた東芝メモリの売却劇。

 「車谷さんに相談することになる」。東芝関係者は4月1日付で会長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、実質的な経営トップとなる元三井住友銀行副頭取の車谷暢昭氏に決断が委ねられるとの見方を示す。

 折しも、東芝は今春に新たな中期経営計画を公表する予定だ。車谷氏の課題は収益の柱となる事業が見当たらない東芝の再成長に向けた青写真をどう描くかであり、東芝メモリの売却は今後の戦略を大きく左右する。

 売却益を攻めのM&A(企業の合併・買収)などに回し、社会インフラ事業の稼ぐ力を高めるか。それとも、売却を撤回して新たな事業構成を探るのか-。

 いずれにしても、ステークホルダーが納得できる姿を示すことが不可欠だ。車谷氏は就任早々、その経営手腕が問われることになる。(万福博之)