プロ野球日本ハムの本拠地移転、JR北海道はチャンスを生かせるか
思わぬところから鉄道新駅の話題が出た。JR北海道・千歳線の北広島駅から札幌方向へ約2キロ。札幌駅から約20キロの地点だ。ここに北海道日本ハムファイターズの本拠地が移転すると内定した。
北広島市が「きたひろしま総合運動公園」を再整備し、野球スタジアムを中核施設とした「ボールパーク」を建設するという。この構想の中に、新駅の誘致が含まれていた。新駅関連の話題だからもっと早くから認知しておくべきだった。しかし、私のプロ野球の興味は巨人軍V9時代で終わっていたため、情報収集の視野になかった。
北広島市が2016年12月20日に球団に提出した提案書(関連リンク)によると、スタジアムの周囲にショッピングモール、ホテル、サブ球場、キャンプ場、広大な芝生広場を2カ所、人工池、ゴーカートコースなどを擁する。構想図には「ジップライン」という乗りものがあって、これはワイヤーを張って滑車で滑り降りるというアトラクションだそうだ。この構想通りに建設されると決まったわけではないけれど、これなら野球に関心のない私も行ってみたくなる。
スタジアムだけでも1試合につき最大3万人規模の集客がある。そればかりか、ホテル、ショッピングモール、レジャー施設もある。JR千歳線は札幌駅と新千歳空港を結び、新千歳空港は空港ターミナルビル直下だ。従って、野球の試合がない時期でも、空港アクセスに優れたホテルとショッピングモールになる。それが線路のすぐそばだ。たいていの鉄道事業者なら「ぜひ駅を作らせてください」と北広島市長にお願いに行くところだ。
しかし、JR北海道社長は素直に喜べないらしい。空気を読めないにもほどがある。
JR北海道社長会見の報道を俯瞰する
それにしても、北広島市はよく頑張った。鉄道の話ではないので詳しく触れないけれど、ざっと球団移転関連のニュースを追ってみて、久々にスカッとする話題だった。
一方で新駅誘致絡みの報道を拾ってみた。こちらはモヤモヤする。
読売新聞 3月28日版「日ハム移転「新駅設置」議論にクギ…JR北社長」
観客の輸送手段の確保に向け「全面的に協力していく」と述べた。
球団や市が求めている新駅の設置については「新駅をつくれば問題が解決するわけではない」と明言を避けた。
「協力したいとは思うが、列車に乗れる人数には限りがある。私どもだけでなく、バスやマイカーによる輸送をどうするかも並行して考える必要がある」
北海道新聞 3月28日版「ボールパーク候補地決定 JR社長「新駅、必要なら議論」」
「基幹的な交通事業者として全面的に協力したい」と表明
「新駅を造れば交通アクセスの問題が解決するということではない」
「必要であれば新駅の議論という順番になる」
「これ(2020年度までに快速エアポートの3割増発)とは別に協力する」
「年間試合数50~60に、どれだけのコストをかけられるか」
朝日新聞 3月28日版「新球場、広さが決め手」
「全面的にご協力を申し上げたい。関係の皆様と協議していく」
「新駅をつくれば交通アクセスが解決するというわけではない」
「千歳線は新球場だけではなく、新千歳空港の輸送も担う。新駅の議論の前に、輸送力増強をどう実現していくか、見据えないといけない」
「全面的に協力していく」と語っているので、読売新聞の「クギを刺す」という見出しはどうかと思う。いかにもJR北海道が水を差している印象だ。しかし、後段で「協力したいとは思うが……」とトーンダウンしていることも事実。「全面的に」の中に「新駅」は入らないという印象を受ける。シャトルバスのために北広島駅前を整備するとか、野球開催日の増発、車両の増結くらいはしますよ、程度の認識かもしれない。
うがった見方をすれば「全面的に」とは言ってみたものの、「前向きすぎる姿勢を見せると、新駅設置費用の負担を求められるかもしれない」と警戒しているようにも感じ取れる。これについては、もとより北広島駅は「請願駅として設置協力を依頼」と報じられているから、そもそも北広島市、あるいは球団も含めて建設費、維持費を面倒見ることになりそうだ。JR北海道社長発言は「請願駅の立場を変えない」という念押しだろう。
ちなみに、JR北海道の社長会見は18年の事業計画の発表として行われた。ボールパーク建設決定を受けて行われたわけではない。事業計画では179億円に及ぶ過去最大の純損失を見込んでおり、とにかくおカネがないという状況だ。そんな場で積極的に「新駅を設置します」とは言いづらいかもしれない。有望な案件には投資したい、と言えないのだろうか。
2本の線路の両側に対向式プラットホームを置く新幹線札幌駅の「大東(おおひがし)案」では75億円の負担を表明し、在来線の増発ができないからと現駅案を否定。ならば、増発する列車の集客になるボールパーク新駅の誕生はありがたいはずだ。相変わらず場当たり的で、鉄道利用者にサービスを提供してお代をいただくという視点に欠ける。
一方、新幹線札幌駅問題では鉄道本来の事業に消極的だが副業に熱心で、これはもう鉄道事業者としてバランスがおかしい。経営陣は表計算ソフトばかりにらんでないで、出札窓口やプラットホームに立ってお客さまを見てほしい。
ボールパーク新駅が魅力的な理由
集客施設の新駅設置で真っ先に思い出した事例が、JR東海の三河塩津駅だ。愛知県蒲郡市にある蒲郡競艇場の最寄り駅。競艇場の向こう、海寄りには埋め立て地と工場団地がある。東海道本線の線路ぎわで、名古屋鉄道が蒲郡競艇場を置いている。JR東海は1988年にここに新駅として三河塩津駅を設置した。1日平均乗車人員は1500人以下で規模は小さく、2017年は無人駅になるなど尻すぼみ感はある。それでも競艇開催時は臨時職員が派遣されるという。1日平均乗車人員も、競艇開催時と非開催時で大きな差があると思われる(詳しくは関連記事:なぜそこに駅はできるのか?)
三河塩津駅の設置によって名鉄蒲郡線は窮地に立たされ、存廃問題も起きている。えげつないと思うけれど、JR東海の戦略が効いている。集客施設付近に、国のご意向とは関係なしに駅を設置できる。これは国鉄が民営化され、身動きが取りやすくなった証しとも言える。JR東海はチャンスを生かしたわけだ。JR北海道にとっても、北広島ボールパーク新駅はチャンスのはずだ。
蒲郡競艇場と北広島ボールパークを比較してみよう。蒲郡競艇の開催日は年間190~200日。北広島スタジアムの野球開催日は年間50~60日。これが駅をフル稼働する日となるだろうから、ボールパーク新駅のフル稼働日は三河塩津駅の4分の1程度となる。ただし、ボールパークは常設のショッピングモールやホテルもある。野球の試合がない日も集客を見込めるし、ホテルとショッピングモールの設置によって、スタジアムも野球以外の需要を生むだろう。
試合の観客数は、蒲郡競艇場の収容人数が1万人、札幌ドーム開催時の観客動員は約3万人。この比率だけで言えば、ボールパーク新駅の利用者は三河塩津駅の3倍だ。1日平均乗車人員としては4000人程度。もちろん稼働日は相当な混雑が予想される。駐車場を比較すると、蒲郡競艇場は乗用車3620台。北広島ボールパークは5000台を予定する。北広島ボールパークは「クルマで行けるスタジアム」をうたっているけれども、来場者数に対して駐車場の比率がまだ少ない。公共交通機関にとって、これほど活躍のチャンスがある地方集客施設は珍しい。
こういう状況の中で、JR北海道は「作ってほしいというなら建設費を出してね」というスタンスだけでいることが嘆かわしい。「当社も魅力を感じている。ぜひ新駅を作らせてほしい。ただし、当社の事情も鑑み、ある程度の地元負担はお願いしたい」と素直な姿勢で臨んだほうがいい。協力的な態度を示した上で、ショッピングモールへの関連会社出店の確約を取るほうが賢いと思う。
いや、いっそのこと「当社負担で新駅を設置するから、ホテルとショッピングモールはJR北海道グループの札幌駅総合開発でやらせてもらえないか」くらいのことは言ってみたらいい。恐らく北広島市と球団は、大きな構想を決めたものの、札幌ドーム、札幌市街から離れているだけに、集客に関しては不安もあるはずだ。大量輸送手段である鉄道の協力は心強い。「JR北海道が北広島市に貸しを作るチャンス」とも言える。
みどりの窓口で野球観戦券や観戦券付き乗車券の発売、道内各地から観戦客向け直通特急列車の運行、関連会社にとっては優勝記念セールの開催など、私から見ればチャンスだらけだ。鉄道職員だって、JR北海道と日本ハムファイターズが協力関係を結べば、球団のワッペンを貼った制服で接客できたり、イベントを開催できたり、楽しい企画が実現できて士気も上がるというもの。
格好つけて相手の申し出を待つなんて、もったいぶっている場合ではない。もっと積極的に関わってチャンスを増やすべきだ。北海道民に人気の日本ハムファイターズにあやかり、ボールパーク歓迎の気運に乗れば、企業イメージのアップにつながる。そういう空気を読めないところがJR北海道の残念なところだ。
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