激化する定額動画サービス競争 アマゾンと共存、競争するライバルたち
調査会社のICT総研によると定額制動画配信サービスの国内利用者は2017年末時点で1190万人。そのうち68%もの人がアマゾンの「Amazonプライム・ビデオ」を使っていると回答したという。圧倒的なシェアを持つアマゾンに対し国内外の企業はどのように対応しているのか。26日に東京都千代田区で行われた角川アスキー総合研究所のセミナー「2020年テレビの行く先 ~デジタルとの共通指標と動画サービス新動向~」で業界のトップランナーたちが語った。
「Amazonプライム・ビデオに市場を荒らされている」
セミナーではテレビ業界関係者からこんな言葉が漏れた。アマゾンの強みはコストパフォーマンスにあるとICT総研は分析している。利用料金が月額1000円前後のサービスが多い中、年間3900円の会員費で動画だけでなくインターネットショッピングの無料配送などの特典もあるからだ。それでいて潤沢な資金を武器に海外の人気番組や日本独自のドラマなどを投入している。
インターネット界の巨人を相手に各社の対応は様々だ。動画配信サービス「フジテレビ・オン・デマンド(FOD)」を手掛けるフジテレビの野村和生氏は、FODの会員の中にAmazonプライム・ビデオ利用者が多かったことを受け「アマゾンと戦うのはやめました。どう共存できるかを真剣に考え始めている。アマゾンで配信しているコンテンツは今後一切FODでは配信しない」と方針を明かした。視聴者の“奪い合い”から一歩引きながらも、配信したアニメやドラマの原作本をFODの電子書籍ストアで販売し、客単価の向上を狙う考えだ。4月9日からは人気漫画「ゴールデンカムイ」(集英社、野田サトル)のアニメを配信し、映像と電子書籍の相乗効果に期待しているという。
Hulu(フールー)を運営するHJホールディングスの於保浩之社長は、アマゾンと世界的大手のNetflix(ネットフリックス)を挙げ、番組ラインアップの違いから「デパートにも伊勢丹や高島屋があるようにすみ分けができる」と競争していく姿勢を見せる。また、過激なカーアクションを売りにするインターネットのバラエティー番組のTVCMについては「『地上波では放送できない』というように(視聴者と)コミュニケーションをとると、ネットは悪いものだとイメージを与えてしまう。堂々と面白いと言えばいい」と苦言を呈した。
TBSホールディングス、テレビ朝日ホールディングス、日本経済新聞社、WOWOWに電通と博報堂DYメディアパートナーズを加えた6社が出資するプレミアム・プラットフォーム・ジャパン(PPJ)は4月1日から新サービス「Paravi(パラビ)」を開始する。月額999円のプランを軸に人気ドラマシリーズの新作「SPECサーガ完結篇『SICK’S 恕乃抄(じょのしょう)~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』」や経済情報番組の配信からスタートし、新聞や書籍などのテキストコンテンツ、ラジオなどの音声コンテンツの提供も検討する。
すでにレッドオーシャン化している市場になぜ今参入するのか。「CDN費(コンテンツ配信にかかる費用)も下がっている。今が適切なタイミング」とPPJ編成制作局コンテンツ調達責任者でTBSの高澤宏昌氏は話すが、理由はそれだけではない。
テレビ各社は権利を持つ映像を配信するとき、自社のプラットフォームを“本店”、自社以外のプラットフォームを“支店”と呼んでいるという。だが一般的な意味とは違って“支店”の権限が強く、“本店”側が配信した番組の視聴期間をコントロールできないなどの事情があった。
TBSは先日終了を発表したTBSオンデマンドのサービスにおいてアマゾンなどと提携していたが、“支店”から視聴者の詳細なパーソナルデータや利用動向などマーケティングに重要な情報を提供してもらえないケースもあったという。だが視聴者を“本店”に集中させれば、特定の番組の視聴者層や、ドラマがよく見られる曜日や時間帯といった膨大な量の情報を取得できる。これらをParavi全体で利活用することでインターネット番組から新聞、ラジオ、書籍へとメディアの枠を超えた展開が可能になる。高澤氏は視聴者動向のデータをParaviで上手に利活用し、「毎日訪れたくなる場所を目指す」と意気込みを語っていた。(価格は税込み)
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