【後継者難の時代】(下)豊富な経験生かし中小へ 労働市場に新たな人の流れ
「30年の会社員生活で培ったノウハウを経営者として生かしたい」
2月の週末、中部・北陸地域の3県が東京都内で移住促進イベントを開催した。都内の企業で働く中高年を中心に約200人が来場。事業承継に悩む域内企業を紹介するブースはひときわ熱気に包まれた。
大企業から中堅・中小企業へ-。事業承継問題の深刻化を受け、日本の労働市場で新たな人の流れが生まれている。
工場自動化(FA)機器を手掛ける天竜精機(長野県駒ケ根市)の小野賢一社長はそうした一人だ。新卒で入社した日製産業(現・日立ハイテクノロジーズ)を飛び出し、2014年に後継者難だった同社社長に就いた。57歳の時だった。
それまで営業本部長として部下500人を束ねていたが、新天地の社員は100人前後。就任当初は戸惑いも多かったが、「今ではやりがいの方が大きい」(小野氏)。
人材サービスのパソナの佐藤奈央子執行役員は「達成感を重視する大企業の中高年社員が増えている」と分析する。大企業では一定の年齢に達したら管理職から外す「役職定年制」を導入するケースが多い。ただし、大量入社世代の彼らに十分なポストで報いるのは難しいのが現実だ。
一方、高いスキルや豊富な経験を持つ大企業出身者を、有力な後継候補に考える中小企業は少なくない。中高年社員にとっても、事業承継は起業に比べリスクを減らせるメリットがあるという。
人工知能(AI)やロボットの登場により、メガバンクをはじめ多くの大企業で人員削減の動きが出ていることも拍車を掛ける。リクルートキャリアによると、転職希望者として登録した銀行員数は17年度に前年度比3割増えた。
人材戦略に詳しいデロイトトーマツコンサルティングの小野隆執行役員は「国の労働力が減る中、大企業と中小企業の人材の需給ギャップは大きな問題」と指摘。事業承継問題が日本の労働市場を変える契機になり得るとみている。
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