武田、世界的大手に対抗も…シャイアー買収に市場冷ややか、株主反発懸念
武田とシャイアーの経営陣が合意に達したことで、日本企業で過去最大となる買収劇は大きなヤマを越えた。武田は買収で有力な新薬と市場の両方を手に入れ、「メガファーマ」と呼ばれる巨大製薬会社の一員として、米ファイザーなどの世界的大手に対抗する構えだ。
製薬大手が収入源とする新薬の開発には巨額の費用がかかる上、新薬候補を実際に発売できる確率は2万~3万分の1しかないとされる。このため、業界では海外中心に買収で新薬を取り込む動きが以前から活発に行われてきた。武田も日本の大手では珍しく、大型買収を駆使する「欧米流」の経営を志向。2008年に米ミレニアムを約9000億円、11年にはナイコメッド(スイス)を約1兆1000億円で買収し、17年にも米アリアド・ファーマシューティカルズを約6300億円で傘下に収めたばかりだ。
武田を大型買収に駆り立てるのは、将来への危機感だ。特に稼ぎ頭だった糖尿病治療薬の特許が11年に切れて以降、収益力が目に見えて低下。17年3月期の連結最終利益は1149億円と、国内2位のアステラス製薬の約半分にとどまる。新薬候補も「ライバルに比べ物足りない」(国内証券アナリスト)と指摘されてきた。
しかも国内では、高齢化の進展で医療費が増加。政府は対策として薬価引き下げや後発薬の普及を進め、製薬大手の収益環境は厳しさを増している。シャイアーは米国の売り上げが6割超を占め、最大市場である同国への進出を加速したい武田にとって理想的な相手といえた。
もっとも、今回の買収に対する市場の見方は厳しい。買収が実現すれば、1兆1000億円を超える武田の有利子負債は数倍に膨らむ見込み。クリストフ・ウェバー社長は「財務の健全性と格付けを維持したい」と強調するが、米系格付け会社のムーディーズ・ジャパンは「債務比率の上昇で複数段階下がる可能性がある」と格下げを示唆する。
また、既存の株主からは株の価値が低下する「希薄化」への反発も予想される。買収に伴い武田は企業価値とほぼ同規模分の新株を発行して支払うため、既存株の価値は半減する懸念がある。買収手続きは英国の裁判所が認可し、シャイアーの株主総会で75%の賛成を得る必要があり、武田も臨時株主総会で新株発行について承認を求めなければならない。両社の株主の同意を取り付けられるのか、先行きはなお予断を許さない。(井田通人)
■「一枚岩となって戦略加速、『ワン・タケダ』に」 武田、ウェバー社長会見 を読む
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