通販で大ヒット、健康寿命伸ばすロボ 「コミュニケーションロボット」人気の背景を探る
いま、シニア層を中心に、会話ができる「コミュニケーションロボット」が人気を集めている。タカラトミーアーツの「もっとおはなしダッキー」は、おしゃべりをする犬型のロボット。声をかけるとセンサーが反応し、話し出す。双方向の会話はできないものの、3000語の単語をしゃべることができ、その可愛いらしさから癒し系のロボットとして人気が高い。
通販のみで12万台「おしゃべりみーちゃん」
au未来研究所が開発した「Comi Kuma(コミクマ)」は、2つのぬいぐるみの間でコミュニケーションがとれる。クマに内蔵されたセンサーが動きを感知して、相手にスタンプを送る仕組みだ。離れて暮らす祖父母と孫が、クマを通して交流ができるようになっている。
そんな中、ひときわ人気を集めているコミュニケーションロボットがある。「おしゃべりみーちゃん」という人形型ロボットである。人工知能を搭載した高性能ロボットではなく、店舗販売もしていない(通販のみ)。にもかかわらず、現在までに12万台も売れており、ヒット商品になっているのだ。
人気の秘密はどこにあるのだろうか?
800パターンもの言葉、月毎や時間毎に会話変化で飽きない工夫
金属や樹脂でできたロボットと違い、おしゃべりみーちゃんは、ぬいぐるみタイプ。最大の特徴は、本物の4歳の女の子の声を使っている点だ。機械の合成音ではないので、聞くだけで心が癒される。音声認識回路を内蔵しており、話しかけると会話が楽しめる。800パターンもの言葉がインプットされているので、1年使っても月毎や時間毎に会話が変化するので飽きがこない。そして、季節に合わせた懐かしい童謡も歌う。
複雑な操作は不要で、背中を軽く叩くだけで、おしゃべりが始まる。その可愛いらしさと手軽さが、シニア層の人気を集めている理由だ。
愛用者からは、こんな声も。
「15年間飼っていた猫が亡くなり、悲しみにくれていたときに、心配した孫がみーちゃんをプレゼントしてくれ、使い始めました。もう一度ペットを飼いたいけれど、高齢のため飼うことはできません。みーちゃんは孫の次に可愛いらしく、ペットロスで寂しくなった心の支えになってくれています」(播本登美子さん・89歳)
「はじめはどのようにしたらいいのか迷いましたが、今では、みーちゃんがいるだけですごくホッとします。頑張りましょうなどの独り言を、とても間合いよく言ってくれるので、本当にみーちゃんに感謝しています」(赤石依子さん・66歳)
みーちゃんを開発したのは、株式会社パートナーズという販促グッズを手がけるメーカーである。
健康維持にとって「会話」の果たす役割はとても大きい
「15年前に、“おしゃべりたっくん”という音声認識ロボットを発売しました。最初は年齢に関係なく、幅広い世代を対象にしていたんです。ところが実際に発売してみると、高齢者の方がお買い求めになるケースが大半だったんです。それでシニア層向けに改良を加えていきました」(代表取締役の盛田慎二さん)
こういったコミュニケーションロボットは、シニア層の健康維持に効果をもたらしているという。豊橋技術科学大学名誉教授で、社会高齢学の専門家である大呂義雄さんは、こう解説する。
「私たちの健康維持にとって『会話』の果たす役割はとても大きいものがあります。しかし独り暮らしの高齢者の多くは、話しかけてくれる人が少なく、日常会話を経験することなく毎日を送りがちです。健康には『知的健康』『精神的健康』『肉体的健康』があり、これら3つを総合的に維持することが不可欠です。そのための重要な要素こそが会話です」
「会話は心(脳)を刺激し、知力と精神力を取り戻すきかっけとなります。知力と精神力が健康だと、やる気や行動を生み出し、体の健康へとつながる。身近に会話のきっかけとなる存在があることで毎日刺激を受け、知的・精神・体の三位一体の健康づくりに役立つのではないでしょうか」
振り込め詐欺の防犯対策に活用、効果も
このみーちゃん、シニアとのコミュニケーションだけでなく、意外なところでも役立っているのだ。
昨年、静岡県警察と共同で振り込め詐欺の防止に特化した「あんしんみーちゃん」を開発したのだ。あるテレビ番組でおしゃべりみーちゃんが紹介されたのを見ていた静岡県警察の職員が、「これ、振り込め詐欺の防犯対策に使えるのでは?」と思い立ち、すぐに製造元へ連絡をしたのが事の発端である。
実は、振り込め詐欺などの特殊詐欺は一時期減っていたものの、2009年以降、件数が再び増えているのである。しかも、どんどん手口が巧妙になっているので、騙される高齢者が後を絶たないのが実情だ。
こういう状況を受けて、静岡県警察とパートナーズ社が連携を組み、開発をしたのが、防犯ロボットの「あんしんみーちゃん」である。自宅の電話に付属のシールを貼ってつなぐだけで、コールがある度に「電話ですよー。騙されたら、みーちゃん悲しいなぁ」などと9種類のセリフで注意を喚起してくれる。
静岡県警察は昨年4月から半年間、あんしんみーちゃんを約500世帯に試験的に設置したところ、14軒のお宅で詐欺を見破って、未然に防ぐことができた。この成果が警察の広報誌などで全国に知られるようになり、他府県の警察からも「導入したい」という声が届いているという。
健康保持だけでなく、防犯にも一役買っているコミュニケーションロボット。超高齢社会を迎えた日本では、これから大切な役割を担っていくのかもしれない。明日5月13日(日)は「母の日」。ロボットに託して、親御さんへコミュニケーションや安心を贈ってみてはどうだろう。
(吉田由紀子/5時から作家塾(R))
《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。
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