【ビジネス解読】「腕時計界のユニクロ」寡占市場に風穴、“第4の日本ブランド”Knot

 
Knotの東京・吉祥寺の店舗。腕時計の本体50種類以上、ベルト90種類以上が並ぶ

 腕時計界のユニクロ-。そう呼ばれる創業5年目の日本のベンチャー企業、Knot(ノット)が人気を集めている。ノットはカジュアル衣料品として世界進出を果たしたユニクロ同様、高品質な製品をリーズナブルな価格で提供することが信条。さらに「日本製へのこだわり」という独自の付加価値もつけ、海外からの注目度も高い。セイコー、シチズン、カシオの大手3社による寡占が進む日本の腕時計業界に風穴を開けたノットの戦略とは。

 東京・吉祥寺にあるノットのギャラリーショップ。明るい日差しが差し込む店内には腕時計の本体が50種類以上、革や布、金属などさまざまな素材のベルトが90種類以上並ぶ。来店客はそれぞれを自由に手にとることができ、組み合わせを試しながら友人らと会話を弾ませる。

 ノット製品の価格帯は腕時計本体で1万~2万円が中心。ベルトは5000円前後だ。それでいて心臓部にあたるムーブメントは日本の大手腕時計メーカーの系列企業による日本製。日本で組み立てもしている。日本製の腕時計が2万円程度で手に入ることや、組み合わせを楽しめるファッション性が評価され、創業4年目(平成29年11月期)で売上高が21億円に到達。腕時計本体は10万5000個、ベルトは15万本を売り上げた。

 メイド・イン・ジャパンの腕時計を手頃な価格で提供できる理由はシンプルな流通モデルだ。腕時計業界では、部品メーカーから組立工場を経て小売店に商品が並ぶまで数多くの中間業者が介在し、コストがかさむのが一般的。これに対し、ノットはデザインから製造、販売までを一貫して手掛けるSPA(製造小売り)方式で大手と同様の製品をより安く売ることができる。

 「腕時計業界に関わる人間なら誰でも思いつくビジネスモデルです」

 ノットの創業者、遠藤弘満社長(43)はこう話す。

 しかし、そのありふれたアイデアは同時に「実現不可能」ともされてきた。日本の腕時計業界は大手による系列化が進み、日本製のムーブメントを系列外の新規参入企業が仕入れることは困難。また組立工場の間でも、大手以外の製品を手掛けることはタブーとされてきたからだ。

 遠藤氏が“不可能”に挑んだのは挫折がきっかけだった。24年、それまで展開してきたデンマークの腕時計ブランド「SKAGEN(スカーゲン)」の輸入販売の権利を突如として失ったのだ。スカーゲンが米国企業に買収され、経営方針が変わったことが理由だった。

 この数カ月前、遠藤氏は約10年にわたるスカーゲンの販売実績が評価され、デンマーク王室から名誉勲章を授与されていた。皇太子も参加した式典では祝福の拍手につつまれ、感謝の言葉を何度もかけられた。事業は順調なはずだったが…。

 「でもこの時すでに買収の話が決まっていた。販売権を失ったときは、だれも信じられないという心境になった」(遠藤氏)

 しかし、これが他人のブランドでは勝負できないという信念を生む。26年にSPA方式による自らのブランド「ノット」を立ち上げ、日本の腕時計業界での“ゲリラ戦”が始まった。

 ノットは日本製のムーブメントを手に入れるため、大手の系列企業が海外向けに卸したムーブメントを逆輸入する形で購入し、生産を始める。ただ、少ない個数での生産はコストがかさみ、まともに利益が出ない状況が続いた。「真っ暗なトンネル。心の中では何度も挫折しそうになった。高校生だった子供たちにもかなり心配をかけた」(同)という。

 それでも諦めなかったのは、輸入販売事業を理不尽な形で失ったことへの「怒り」があったからだ。状況の好転は販売量が増え出したタイミングとともに到来。大手の系列企業2社から「ノットさん、うちの部品を使っていますよね。一度、お会いしましょう」と声がかかり、これを機に直接商談が始まった。同じころ、組立工場についても協力企業を発掘することに成功した。

 大手の系列企業がノットへの関与に転じた背景には、系列内だけでのビジネスに安住することへの問題意識もあったようだ。また、大手が生産を中国などの海外にシフトさせる中、生き残りをかける組立工場側にもノットのような新たな取引先は貴重な存在だった。

 立ち上げから約2年でノットの事業は軌道に乗る。現在は東京、名古屋、大阪など国内6都市に7つの直営店を展開。海外では台湾、ベトナム、タイ、シンガポールに進出している。

 もともとノットが日本製を打ち出してきたのは海外でのブランド力を意識した戦略だ。海外向けメディアを通じて、海外での認知度も高まっており、日本国内の店舗にも多くの訪日客が買い物に立ち寄る。現在も海外の大都市からの引き合いが絶えず、年間3~5カ国程度の進出を進める構想を描く。

 ノットは腕時計業界に80年ぶりに誕生したとされる「第4の日本ブランド」として、小さいながらも存在感を放つ。遠藤氏は「中期的な目標は国内外で100店舗、100万本の販売。腕時計のエントリーブランドとして世界一を目指す」と意気込んでいる。(小雲規生)