【千葉発 輝く】エスコアール 失語症患者用教材、リハビリ現場一変
脳梗塞や交通事故で脳が損傷を受け、言葉が出にくくなる「失語症」。長い間、医療機関などの現場ではリハビリ用教材について、担当者が広告を切り抜いて自作したり、子供向けの絵本を利用したりしていたが、画期的な商品を開発し、環境を一変させたのが千葉県木更津市の出版会社「エスコアール」だ。障害者の雇用にも取り組むほか、子供向けのリハビリ教材や専用アプリの開発も行っており、2000以上の商品を展開する同社だが、鈴木弘二社長(72)の情熱はまだ尽きることがない。
子供用にショック
同社は福祉系の大学を卒業後、医療機関などで言語聴覚士として失語症患者のリハビリに携わってきた鈴木さんと妻の敏子さんが起業した。
失語症患者向けのリハビリ教材「絵カード2001」をはじめ、絵が描いてあるカードを専用の音声ペンでタッチすると絵柄を読み上げてくれて、一人でもリハビリができる絵カードの改良版「アクトカード」などを開発。いずれも大きな反響があり、失語症のリハビリ現場を一変させた。
こうした商品の開発は、高齢者に多いという失語症患者の実態とも関係があったと鈴木さん。「幼稚園ぐらいの子供向けの絵本をリハビリに使う現場もあった。でも患者さんにすれば、幼稚園児の本を使われているショックで口もきかなくなってしまうというのはあちこちで聞いた」と明かす。
失語症のリハビリ教材にとどまらず、子供も含む障害者全般のリハビリや支援につながるさまざまな商品を開発している同社。言語聴覚士向けの教科書や自閉症を抱える作家の東田直樹さんの代表作で世界約30カ国で翻訳されている「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」の出版も手がける。
こうした障害者支援の長年の功績が評価され、バリアフリーやユニバーサルデザインの推進に顕著な功績のあった個人や団体が表彰される内閣府の「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」を受賞した。
1997年に言語聴覚士法が成立し、国家資格となった言語聴覚士の地位向上などにも尽力している。「かつてはリハビリの現場で理学療法士や看護師などの国家資格を持つ人に交じって、資格を持たない言語聴覚士が一緒に仕事をしていた。これはおかしいとずっと思っていた」と振り返る。こうした地道な活動で、同社が新商品の展示会などを行うとなれば、全国から多くの専門家が訪れる。
障害者雇用にも熱心
商品開発で障害者への支援に熱心に取り組む一方、障害者雇用にも積極的だ。同社の10人の正社員のうち5人は障害者。障害の程度や個性に合わせて適材適所でのびのび働いている。
足の不自由な社員は、パソコン作業で書籍の出版などの業務を一手に担う。発達障害の一種であるアスペルガー症候群の社員は、電話応対などは苦手なので、代わりに翻訳業務といった得意分野で活躍する。
「障害者の方たちと自分が一緒に会社をやっていきたい」との思いは実現している。
会社設立から約30年が経過して、時代も大きく変わってきた。変化を見据え、タブレット端末で使用できるアプリの開発もその一つだ。今も現場で手作りの教材を目にしたりすると、今後の商品開発に向けた新たな発見があるという。
「新しい発見があればそれに対応していきたい」
リハビリの現場を良くしたいという思いとそのための歩みはこれからも続いていく。(永田岳彦)
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【会社概要】エスコアール
▽本社=千葉県木更津市畑沢2-36-3
▽設立=1991年4月
▽資本金=1000万円
▽売上高=1億2000万円(2018年3月期)
▽従業員=14人(パート含む)
▽事業内容=障害者者関連書籍の出版、障害者向け検査・訓練教材の開発・販売など
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□鈴木弘二社長
■現場の声を聞き役立つものを
--起業し、失語症のリハビリ教材などを作るようになったきっかけは
「リハビリ施設で言語障害の方の訓練を担当してきたが、現場で不足していることについて私もいろいろ感じていた。現場ではみんなが手作りでリハビリ教材を作っていたが、あまりに忙しいものだから、現場のニーズを商品化して共通のものを市場に出せないかと考えて起業した」
--障害者の方の雇用にも熱心に取り組んでいる
「大学の頃から障害者の方と関わってきて、いつか一緒に仕事をしたいと思っていた。仕事に就くのは並大抵のことではないが、優秀な人も多い。一人一人が違うから、同じことで競争はさせない。その人ができるところで最大限力を発揮してくれればいい」
--子供向けも含めて幅広い商品を展開している
「失語症の場合で言えば、大人向けのイラストであったり、高齢者にも使いやすいものを心がけている。子供向けにはとにかく分かりやすいものを。全国で協力してくれる専門家の意見も参考にしながら、2、3カ月に1回は何らかの新製品を出している」
--昨年度は会社が内閣府から表彰を受けた
「会社設立当初は、会社経営が分かっていない状態で、今のようにインターネットで調べることもできないから、商取引の言葉も分からなかった。主力商品になった『絵カード』も、周囲の人がイラストレーターを探してくれたり、助けられてきたので感謝している」
--今後の意気込みや展望は
「商品開発に協力してもらっている全国の専門家に話を聞くと今も手作りの教材に頼っている実態がある。失語症のリハビリ教材でもある。現場で役立つものを、現場の声を聞きながら、これからもいろいろと充実させていきたい。日々新しい発見もあるし、こんなことをやっていたんだという驚きはある」
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【プロフィル】鈴木弘二
すずき・ひろじ 日本社会事業大卒。医療機関やリハビリ施設でソーシャルケースワーカーや言語聴覚士として勤務した後、独立し、1990年、エスコアールを設立。91年から社長。72歳。栃木県出身。
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≪イチ押し!≫
■子供が楽しめるよう随所に配慮
身体の不自由な子供向けの「支援機器」が初心者でも簡単に作れる「工作キット」。
特に4月以降は、同じく障害者教育や支援に取り組んでいる団体「マジカルトイボックス」と協働でおにぎりケースの形や棒状のスイッチなど6種類を開発。支援機器の人形とつなぐことで、障害のある子供たちが楽しみながら操作をできるようにする狙いがある。
「特別支援学校の先生などに特に評判が良い。私も工業高校出身でモノづくりにはもともと関心があった」と鈴木さん。指が不自由、手全体が不自由などさまざまなバリエーションを想定しているが、組み立ては簡単にして費用も1個数百円からに抑えた。
子供たちが楽しみつつ、リハビリに取り組めるような配慮が随所に盛り込まれている。
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