「変わらないのがコメダ」を変えたブラックコーヒー 本気になったその理由は

提供:PRESIDENT Online
「コメ黒」のポスター(編集部撮影)

 全国に約800店を展開するカフェチェーン「コメダ珈琲店」が、ブラックコーヒーに力を入れ始めている。コメダの主力商品は、砂糖とミルクを入れて飲むことを推奨するブレンドコーヒーだ。なぜ今になって、「ブラック」を重視し始めたのか--。

 店で抽出する「コメ黒」を全国展開

 「コメ黒」というコーヒーを、ご存じだろうか。

 全国に800店近くある「コメダ珈琲店」が、力を入れるメニューで、2月26日から各店での導入を順次進めている。1杯の価格は店舗により異なるが、ブレンドコーヒー+100円(税込み)の値づけだ。

 「コクのあるブラジル最上級グレードの豆をベースに、華やかに香り高いキリマンジャロの豆をブレンド。上品な酸味と深いコクに、甘い香り。そしてすっきりとした後味を、絶妙なバランスでお楽しみいただけます。ブラックで飲んでいただきたいので、基本はコーヒーフレッシュを提供していません」(広報担当)

 最初にこのメニューが登場したのは、2016年7月15日にオープンした「コメダ珈琲店 渋谷宮益坂店」(東京都渋谷区)だ。このとき特に「プレス発表会」はなかったが、筆者は事前に新メニューを投入するという情報を得て、オープン日に店に行き「コメ黒」を味わった(当時650円)。価格が高いのは、この店はサイフォンで抽出するからだ。

 その後、「コメ黒」は人気を呼び、コメダ本社と同じビルにある「葵店」(名古屋市東区)にも展開した。だが、あくまで一部の店で飲める「限定コーヒー」だった。それが今年2月末から一部の店舗を除き、全国展開を始めたのだ。大半の店ではサイフォンでなく、専用の機器で抽出する。

 「変わらないのがコメダ」を変えた理由

 コメダには、フレッシュと砂糖を入れて飲むのを推奨する「ブレンドコーヒー」がある。こちらは店の主力商品で、専用のコーヒー工場で一括抽出する。

 「コメダのコーヒーの香味コンセプトは、すっきりした口当たりと砂糖、ミルクにも負けない、しっかりとしたボディをもつものです。味わいでは、力強い苦味とさわやかな酸味が調和しており、雑味や異臭がないのも特徴です」(広報担当)

 あまり知られていないが、次の工程で焙煎・抽出される。

 (1)コロンビアなど世界中のコーヒー豆から選んだ4種の生豆を7種の焙煎豆にする

 (ある豆は浅煎り、別の豆は深煎りにするなど、生豆の特長を生かして焙煎)

 (2)独自の比率でブレンド(アフターミックス)し、挽いて粉にする

 (3)2枚に重ねた布でゆっくり落として抽出

 今年で創業50年のコメダには、「定番メニューで、変わらないのもコメダらしさ」という店舗哲学がある。だが消費者意識の変化とともに、定番だけをかたくなに守る姿勢は厳しくなった。そこで近年は、新商品や期間限定品を積極投入する。人気となったメニューの一部を「定番品」に昇格させることもある。

 そう考えると「コメ黒」の位置づけが理解しやすいが、実は別の側面も隠れている。

 「ブラック嗜好」や「フォースウェーブ」に対応

 それは「ブラックで飲む時代」と「フォースウェーブコーヒー」への対応だ。

 戦後の高度成長時代から一般的になったコーヒーは、フレッシュと砂糖を入れて飲むのが定番だった。だが近年は健康志向の高まりもあり「ブラック」で飲む人が多い。

 コメダが一足先に、そうした客層に向けて出したのは、アイスメニューだ。定番の「アイスコーヒー」(基本は甘みシロップ入り)に加えて、「金のアイスコーヒー」という商品を開発し、2016年から各店に展開した。ドリップコーヒーにエスプレッソコーヒーを“ブレンド”した品で、こちらも甘みシロップやコーヒーフレッシュはつけない(頼めば出してくれるが)。それをホットメニューで応用したのが「コメ黒」といえる。

 もう1つは、老舗コーヒー店としての意地だ。「サードウェーブコーヒーやハンドドリップコーヒーをウチでも考えよう」という機運が高まり、開発を始めた。中京地区の「コーヒー屋にロマンを持っている」FC店オーナーの要望もあったと聞く。

 開発に当たり、経営幹部が東京都内の名店も視察した。1杯ずつ丁寧に淹れる名店のレベルでは「多店舗展開」がむずかしかったが、大手メーカーの機器を導入して工夫すれば、おいしい味が抽出できることがわかった。

 サードウェーブに続いて、現在は第4の波「フォースウェーブコーヒー」の時代といわれる。それには同じ農園でも栽培方法の違いを求めるなど、いくつかの潮流がある。さらに美味となる「データ」を入力すれば機械が味を安定させてくれる動きも出てきた。「コメ黒」は、メーカーと共同開発した専用機器で淹れている。

 では、これから「コメ黒」がコメダ珈琲店の主流になるかといえば、そうではない。鉄道に例えると、あくまで「本線=ブレンドコーヒー」で、「支線=コメ黒」なのだ。この本線はコメダの“ドル箱路線”で、800店近い店に提供するのに最適な設計だからだ。

 関東地区に「コーヒー工場」も建設

 筆者が最初に同社の取材を始めた10年前、「コメダ珈琲店」の店舗数は300店台だった。それが冒頭で紹介したように約800店となり、10年で500店近く増えた。

 ここまで増えると、店舗拡大に生産能力が追いつかない可能性も出る。そこで従来の中京地区にあるコーヒー工場に加えて、今年中に関東地区で新工場建設を予定している。

 「千葉県に建設するコーヒー工場は、『生産能力増』と『拠点増』の位置づけです。2015年に稼働した千葉工場(パン専門工場)は、中京地区のパン工場だけでは供給が厳しくなったために新設しましたが、コーヒー工場も似た事情。現在は北海道にも店舗が増え、物流コストも高いので、東日本地区の各店への安定供給をめざします」(臼井興胤社長)

 まだ先の話だが、新コーヒー工場が軌道に乗れば、さまざまな取り組みもできる。たとえば、時代に合わせて「ブレンドコーヒー」の味の微調整も可能だろう。そうした諸事情から考えると、「コメ黒」の各店導入は、あくまでも一里塚。コメダ40年ぶりの「コーヒー改革」につながる可能性を秘めている。

 高井 尚之(たかい・なおゆき)

 経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

 1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王・情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。著書に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか』(プレジデント社)などがある。

 (経済ジャーナリスト 高井 尚之)