【視点】株式投資型クラウドファンディング 若い企業のための市場成長を期待
□フジサンケイビジネスアイ編集委員・大塚昌吾
足袋の町を舞台に、100年の歴史のある足袋会社「こはぜ屋」の生き残りをかけた戦いを描いた池井戸潤作品の「陸王」(集英社)。こはぜ屋は、ランニングシューズの開発に注力するが、成長性のあるベンチャー部門であるにもかかわらず、取引銀行の融資を受けられずに苦戦する-。
アップルやグーグル、ヤフーなど世界に名だたる企業を誕生させてきた米シリコンバレーでは、創業期のスタートアップ企業が何億円もの資金を元手に成長を遂げていく。
日本では中小、ベンチャーのほとんどが銀行融資に依存し、事業選択も銀行の担当者の「判断」に左右される。「銀行は担保価値や返済能力は審査するが、企業の成長性には目を向けない。間接金融の限界だ」と証券市場関係者は指摘する。
これに対し、株式を発行し、金融市場から資金調達するのが直接金融だが、新興市場の東証マザーズに上場するにしても、株主数や流通株式数、株式時価総額などの下限が設定され、ハードルは高い。
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そこで、IPO(新規株式公開)には遠いが、銀行融資だけでは成長を確保できないスタートアップ企業のため、新たな金融市場として創設されたのが、株式投資型クラウドファンディング(CF)だ。金融商品取引法の改正と日本証券業協会の自主規制ルールの整備を経て、2015年5月に制度化され、昨年4~11月にかけてサービス運営会社3社が参入。第1号案件から1年余りで資金調達総額が10億円台、今年末の累計目標が50億円を超える規模に成長した。
未公開株に投資するリスク軽減のため、募集企業の調達額は年間1億円未満、個人の投資上限は1社50万円までと制限され、手数料ビジネスとしては小さいが、参入3社は異なるアプローチで市場育成に力を入れている。
第1号案件を手掛け、投資家の登録数、募集案件数、調達総額でトップを走る日本クラウドキャピタルの2人の代表は、システムと経営、マーケティングが専門。大浦学最高執行責任者(COO)は「スタートアップ企業の資本金は平均300万円程度で、世界を相手に満足に戦えない。1800兆円の個人金融資産を投資に結びつけたい」と、さらなる市場拡大を狙う。5月に実施された日本初の無料配車・運行会社「nommoc(ノモック)」の5000万円の資金調達は、事業内容が注目され、株式投資型CFの知名度を一気に高めた。
DANベンチャーキャピタルの出縄良人社長は公認会計士。投資性よりも企業支援を重視し、「拡大縁故募集」という位置付けで地元企業を応援する。自社研究の技術で熟成すしを提供する東京・銀座のすし店「悟中」は、店内で使える優待券や特別メニューの提供で投資家に還元する。出縄氏は「株式会社は約200万あるが、株式を発行して資本調達している企業は約1万社しかない」と、地方金融機関などを通じて募集企業を増やしていく方針。
エメラダの澤村帝我社長は、証券大手の投資銀行部門出身。「投資の回収に5年も10年もかかるようでは投資家は納得しない」と、募集案件をベンチャーキャピタルの出資企業に絞り、IPOやM&A(企業の合併・買収)でリターンを得るスキームを明確に示す。
「多くの投資家が支持してくれたことに価値を感じる」(ノモックの吉田拓巳社長)、「配当にはつながらない熟成技術の研究が投資家に理解された」(悟中の廣瀬真由加社長)と、企業にとっての“上場体験”の効果も大きい。
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新たな金融市場として存在感を見せ始めた株式投資型CFだが、今後、順調に拡大するのか-。企業金融が専門の桃山学院大の松尾順介教授は「発行した株を塩づけにせず、流動性を高めることが課題」と話す。そのために、マザーズよりも敷居の低いプロ投資家向けの東京プロマーケットや、参加者が証券会社を通じて未公開株を売買できる株主コミュニティ制度と「連携する工夫が必要」と説く。
発行市場と流通市場が組み、若い企業のための若い市場がどう成長していくか、見守りたい。
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