【高論卓説】存在感の低下、留学の壁も「文化力」は盛況…米で感じた日本の限界と可能性
先月、約9日間、ボストン・ワシントンDC・ニューヨークと米国東海岸の3都市を訪問した。きっかけは、ボストン(ケンブリッジ市)にある母校のハーバード大学行政大学院(ケネディスクール)の5年に1度の同窓会にて、所属していたコースのクラスセッションでの代表プレゼンの依頼だ。「優秀な学生だったから」というより、「当時から仲が良かったクラス委員に押しつけられた」からなのだが、日本人がやるのも悪くないと考え、引き受けた。
せっかくの訪米の機会を前に、「日本の活性化」を社是とする弊社内で議論をし、米国での日本の存在感向上のため、発信拠点創設を模索すべくワシントンDC・ニューヨーク訪問を決めた。結論として、当該拠点は、(1)留学生や国際機関職員としての日本人送り出し(2)地域産品など埋もれている製品・サービスの展開(3)日本政治・経済状況の発信-の3つを一体としてミッションとすべきだ、となった。ただ、この話は、相当の資金と労力を要する。深い理解とかなりの資金をお持ちの方を見つけないと始まらない。
さて、話を最初の訪問先のボストンに戻そう。随所で日本の存在感低下を感じた。留学時にお世話になった「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の著者として名高いエズラ・ヴォーゲル先生にお誘い頂き、ファカルティ・クラブでのランチをご一緒したが、88歳の先生も、真の信頼関係に基づく日米のパイプの弱体化を懸念していた。自ら「絆の強化になるなら」と、比較的若い日本研究者を帯同してご紹介くださった。ただ、ヴォーゲル先生も最近は得意の中国語で中国研究をしている。
さらに、ケネディスクールの入試担当のアドミッション・オフィスでは、前から懇意にしている責任者に会い、日本人受験者に英語力(特に「話す」「聞く」)を厳しく課している実態を聞いた。オフレコ条件もあって詳細は省くが、ショックを受けた。
次に訪問したワシントンDCでは、大使館公使やホワイトハウスに出入りするジェトロ(日本貿易振興機構)産業調査員、IMF(国際通貨基金)副専務理事などの国際機関関係者、経団連米国事務所長、米国政府機関に出入りする留学先の元同級生、トヨタのロビイング担当者などに会った。
安倍総理とトランプ大統領の蜜月が演出された首脳会談の翌月であったにも関わらず、北朝鮮問題、中国との通商問題、イラン問題その他の重要マターにおいて存在感を発揮しづらい日本の置かれた厳しい状況の話がメインだった。
失意のうちにニューヨークに入ったが、ここでは逆に、日本の文化力のすごさを痛感した。ラーメンが約15ドルする「一風堂」、店舗を激増させている「いきなりステーキ」を始め、牛角その他、日本の食の展開がすごい。五番街のユニクロの旗艦店ではドラえもんや村上隆とコラボした店構えが人々の度肝を抜いており、MoMA(近代美術館)のショップには、日本の建築家やデザイナーの本が所狭しと並ぶ。ジェトロの所長もジャパン・ソサイエティーの担当も、大谷の活躍や映画・アニメなど、日本の存在感向上を強調していた。
「日本」という存在の米国における限界と可能性の双方を感じつつ帰国したが、さて、上記の拠点話をどう進めよう。諸賢のアドバイス、お待ちしています。
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【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。45歳。
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