「現場の声」拾いアルバイト定着、飲食業界などで導入進む人材活用システムとは
大学生や高校生ら、弱い立場にある非正規雇用のアルバイト・パートに対する勤務シフトの強要、賃金不払い、ノルマや商品の自腹購入に代表される「ブラックバイト」。逆に、飲食店などのアルバイトが店への迷惑行為をSNS(会員制交流サイト)に投稿する「バイトテロ」は、企業が被害者だ。
そんな問題を解決する秘密兵器を東京の下町にあるITベンチャーが開発、外食や小売業界を中心に導入企業が広がっている。ブラック企業を壊滅し、ホワイト企業を育成するシステムとは…。
ルーツはディズニー
大学生がシフトの強要などで学校にも通えなくなるブラックバイトの実態は、外食チェーンのフランチャイズ店で起きた事件をきっかけに、クローズアップされた。ノルマを課せられ、商品を自腹購入させられたり、レジの不足金やオーダーミスを補填(ほてん)させられたりする悪質なケースも表面化した。
背景には、アルバイトの慢性的な人手不足と、雇用側の企業にとっては時給コストの上昇があるが、力ずくで引き留めようとしたり、目先のコストを回避しようとしたりすることで、結果的にアルバイト離れを助長する悪循環に陥っている。
こうした状況の解決手段として注目され、需要を伸ばしているのが、アルバイト・パートと経営トップ▽アルバイト・パートと人事担当者▽アルバイト・パートと店長・現場責任者-らを結ぶ人材活用システム「パフォーマンスプラス」だ。
現場のタブレット端末やスマートフォンと、会社のシステムをつなぎ、質問に答える形でその日の仕事ぶりを振り返ったり、コメント欄に感想や会社に報告したいことを入力したりできる。
開発したのは、システムの受託開発やITコンサルティングを手掛けるアルカディア・イーエックス(東京都江東区)。ウォルト・ディズニー・ジャパンのシステム部門出身の佐藤正社長(53)が、さまざまな雇用形態で集まるキャストを育て、大切にするディズニー流の人材管理術に学び、開発した。
システムの提供開始は2015年だが、外食や小売業界だけでなく介護サービスなど幅広い業種で人手不足が深刻になり、初年度に9社だった契約数は、16年度に新たに24社、17年度にさらに26社と拡大。中華、居酒屋、弁当、ファストフード、衣料品小売り、美容・エステの大手有名チェーンのほか、介護、コールセンター、病院でも導入が進んでいる。
改善と隠蔽
槇千亜紀副社長によれば、ある飲食店チェーンでは、「数台ある炊飯器のうち1台が壊れているのに店長が放置したままで、ランチタイムが終わる前にライスが品切れになる状況が続いている」と、店員がコメント機能を利用して経営陣に訴えたところ、すぐに新しい炊飯器が入ったという“成果”も。
素性を隠し、変装して自社の現場に潜入、会社の課題を発見するNHKのテレビ番組「覆面リサーチ ボス潜入」をほうふつさせる。
一方、ある大手居酒屋チェーンは、このシステムの導入に向けたトライアルで、アルバイト店員が「店にネズミがたくさん出て困っている」などとコメントで書き込んだ。カイゼンにつながる絶好のチャンスだが、この会社の場合、「こんなことが経営陣にバレたら問題になる」と、導入を見送ったというから、まさにブラック企業だ。
システムはそもそも、会社側が現場の不安やSOSを素早くキャッチし、働きやすい環境をつくることで、アルバイト・パートの貢献意識を高め、生産性をアップすることを目的にしている。その結果、アルバイトの定着率や経営の安定性を高めることができる。
ただ、システムの導入を見送った大手居酒屋チェーンのように、そもそもホワイト化する気のない企業には変革のチャンスは訪れない。
槇副社長は「4割が非正規雇用という状況の中で、アルバイトの定着率の低さは経営の安定を損なう。アルバイト紹介大手はあるが、アルバイトを定着させるのが私たちの仕事。ホワイト企業でないと生き残れない環境を日本につくりたい」と話す。(大塚昌吾)
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