【茨城発 輝く】「道なき未知切り拓く」発想で開発 九州北部豪雨で真価、諸岡の機械

 
諸岡の代表的な製品「キャリアダンプ」。このモデルは上部が360度旋回する=茨城県龍ケ崎市(海老原由紀撮影)

 建設や農林業、災害復旧など幅広い分野で活動する機械を製造している茨城県龍ケ崎市の諸岡。走行装置の一種であるクローラ(走行用ベルト)の鉄をゴムに置き換え、ブリヂストンと共同で開発した「ゴムクローラ」は、つなぎ目がなく、耐久性に優れている。これに油圧による動力伝達装置を備えた諸岡の機械が相まって、スムーズで安定した走行と牽引(けんいん)力を生み出してきた。

 九州北部豪雨で真価

 主力製品の一つ、自走式木材破砕機(クラッシャー)は、防衛省への納入実績がある。木や枝葉を3~5センチ大のチップに圧縮し、エネルギー資源に再利用できるのが特長だ。この自走式木材破砕機が2017年7月の九州北部豪雨で被害を大きくした流木の処理に真価を発揮した。

 工事車両が沈んでしまう湿地帯での作業で「こんな機械があったら」という発想が、ものづくりの原点だ。市場の動きをつかみ、ユーザーの声を聞き、求めていることを意識しながら機械を開発している。

 経営理念の一つに「道なき未知を切り拓く」がある。創業者、諸岡一雄氏の言葉だ。不整地や傾斜地などの道がないような場所でも進む自社の製品と、自社の将来をかけている。

 この「道なき…」に「活力ある企業を目指す」を添えた言葉が諸岡のホームページに明記されており、社長の諸岡正美氏(59)は「常にチャレンジ精神を持って、新たな『世界』に挑んでいき、企業を活性化させる意味だ」と説明する。

 スタートラインは、農業用水を確保するための「井戸掘り」だ。一雄氏が高台での稲作を模索していたところ、地下水をくみ上げる井戸を思いつく。1958年に井戸掘りや配管敷設の事業を興すと、66年に法人化。その後、建設業とともに取り組んでいた機械製造が軌道に乗ったことから、製造業への一本化を図る。

 正美氏は、創業者であり、父でもある一雄氏の背中を見て育った。父から「戻ってこい」と声をかけられて23歳のとき、諸岡に入社。最初は資材調達の部署に配属され、30歳で社長に就任するまでには営業も経験した。

 米国に代理店をつくったり、欧州諸国で取引を始めたりと、海外の市場を開拓することに汗を流した。大型免許を持つ自らが各地で機械を操作する実演もした。

 新製品は自ら試験

 新製品は、全て運転し、量産するかどうかを決める。月1回の商品開発会議にも出席し、社員が持ち寄るアイデアを基に話し合いを進めるという。

 「父が機械のベースをつくり、形にした。私はどちらかといえば営業系だが、体の中には土建屋のDNAが入っている」

 正美氏は、企業成長を支える人材の育成や職場の環境づくりにも注力する。できる限り各部署を回り、何か問題はないか、チームで仕事ができているかと心を配りながら社員に声をかける。「社員に力を発揮してもらうためには何をすればいいかを考えている」と話す。

 今や、あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」や人工知能(AI)が活用される時代。正美氏は「時代に合わせた機械の開発をしなければならない」と先を見据える。

 諸岡は今年3月で創業60周年を迎えた。正美氏は「人間でいえば還暦。これを機に、何か変わった、新しいことができれば」と語る。高品質で独創的な製品を提供しつつ、さらなる「未知」への開拓のチャレンジに思案を巡らせている。(海老原由紀)

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【会社概要】諸岡

 ▽本社=茨城県龍ケ崎市庄兵衛新田町358 ((電)0297・66・2111)

 ▽設立=1966年11月

 ▽資本金=1億円

 ▽従業員=182人

 ▽売上高=114億5000万円(2018年3月期)

 ▽事業内容=建設・農林業・環境機械の製造販売

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 ■昔のものを現代風にアレンジ 諸岡正美社長

 --機械開発の発想は

 「例えば30年前に流行したファッションが今またはやるように、数十年前に活躍した機械を今の時代に合わせてアレンジしたら活躍できるのではないか。そういうことが発想の一つになっている」

 --茨城に本社がある利点は

 「県内には加工や板金の会社、建設や農業の機械を製造する工場がたくさんあって、ものづくりをしやすい環境だった。海外で営業をするにしても本社から成田空港まで1時間。都内も1時間で行くことができる。地理的条件に恵まれているからこそ、こういう仕事ができたと感謝している」

 --機械操作の実演はいつまで

 「10年ほど前まではやっていた。今はなるべく譲ることを考えている。自分一人が何でもこなすだけでは駄目で、自分の思いを社員に理解してもらい、仕事を覚えてもらうことが企業の成長に必要と思っている」

 --各部署を回る思いは

 「働きやすい環境を提供するのが会社の役割。雰囲気的なところにも注意を払う。たまに冗談で『社長が労働組合の委員長だからな』と言っている。何かあれば何でも言ってほしいという気持ちでいる」

 --女性が活躍している

 「適材適所の配置、最大限の力を発揮してくれる人に任せるのがベストだと思っている。私は女性だから、男性だからという差別意識はない。管理職になっていない男性社員も女性社員も非常に頑張っている」

 --常陽銀行の私募債で茨城国体を応援している

 「頑張っている地元のスポーツ選手の支援を心掛けている。創業55周年のときには、当時大関だった稀勢の里関に化粧まわしを贈呈した」

 --60周年を迎えて一言

 「地元の皆さんにお世話になったので、地元にいろいろな貢献をしていきたい」

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【プロフィル】諸岡正美

 もろおか・まさみ 慶応大卒。マンション建設大手に就職するが、創業者の父に声をかけられて半年ほどで退職し、諸岡に転職する。営業などを経験し、30歳で社長に就任。59歳。茨城県出身。

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 ■年500台出荷「キャリアダンプ」

 年間約500台を出荷するという諸岡の代表的な製品。操作性と安全性を両立させ、良好な視界を確保した。足回りに強靱(きょうじん)なゴムクローラを備え、不整地や軟弱な地盤での土砂、資材の運搬で威力を発揮している。

 評価の高さは国内だけにとどまらない。海外ではシェアナンバーワンを誇る。キャリアダンプの中でも特に人気があるVDRシリーズは、上部のボディーが360度旋回するのが特長だ。方向転換や切り返しの作業が必要なく、Uターンができないような狭い道でも容易に行き来できる。オペレーターが場所を選ばずに土砂を取り除いたり、荷物を楽に運搬したりできることから、作業効率の向上につながっている。

 最大積載量が7トンと11トンのモデルには、エアコン装備の運転席やバックカメラ、7インチのモニターを配している。