【木下隆之のクルマ三昧】たかが「2ミリ」…されど凄い 新型カローラの“大英断”
話題の新車のホイールアーチクリアランス(ホイールアーチとタイヤの隙間)が2ミリ減った。たった2ミリ、されど2ミリ。その2ミリが持つ意味の奥深さ。
◆フェンダーに引き寄せられ…
「新型カローラの、フェンダーの爪は折り返されていた…」
先日開催された新型カローラの試乗会の場で、開発責任者のプレゼンテーションで添えられた「フェンダーの爪折り」に関して、僕はグイグイと引き寄せられた。ホイールアーチクリアランスが6ミリから4ミリへと減っていたのだ。
とまあ、唐突にそう紹介しても、なんのことなのか理解不能でしょうね。
フェンダーとはクルマを保護する外板のことで、一般的にはタイヤを包む前後の張り出しを指す。
その外板は実は、タイヤの円周に沿って雑にカットされているのではなく、内側に向かって丁寧に折り畳まれている。切り口が剥き出しでは危険だし、万が一タイヤと干渉したらパンクの危険もあるからだ。
そう、その折り畳みが今回の注目点。折り畳まれているのりしろは、一般的には数ミリである。従来型のカローラは6ミリ。それが4ミリに減ったというのが、今回僕が「グ~」と唸ったところだ。
◆“ふんばり感”とカッコよさがアップ
普段は目に触れる部分ではないし、手を触れることもないから気にする方も少なかろう。そんなだから、「それがどうした…?」と、多くの方がそんな感想を抱くだろう。
だが、これが新型カローラのコンセプトを実に明確に物語っているし、トヨタ開発陣もついにそこにメスを入れたのかと感心することになったのだ。
僕らクルマ好きは昔から「フェンダーの爪を折る」という言葉を使って、DIY的に細工をしていた。愛車をドレスアップするときにタイヤサイズを拡大する。純正サイズから1インチ、もしくは2インチほど大径ホイールをはくのだ。同時にオフセットを細工することで、タイヤをより外側に張り出させる。
そのとき、フェンダーの折り返しがタイヤと干渉する。それを避けるために、ペンチやスパナを当てて、内側ののりしろを丁寧に折り畳んでいたのだ。
「なんのために?」
マシンのコーナリング性能が高まると同時に、視覚的なふんばり感が高まる。フェンダーとタイヤの隙間を減らすと同時に、外板からのタイヤの深さが少なくすることによって、“ふんばり感”が強調されるのだ。平たく言えば、カッコイイのである。
◆かつてのトヨタではできなかった
「だったら最初からやっておけばいいのに」
そう、市販する段階で事前に処理してくれていれば嬉しい。だが、これは、いうほど簡単ではない。もちろん、鉄板を折り畳むだけだから、技術的には難題ではない。だが、1円でもコストを抑えたい大量産モデルでは、折り畳むという工程が一つ増えることを嫌う。
しかも、折り畳めばその隙間に雨水がたまりやすい。となれば、錆の心配をせねばならない。防錆処理も必要になってくる。カッコイイことはわかっていても、コストという壁を乗り越えられず、爪を折らずにこれまでやってきたのである。
かつて韓国ヒュンダイが開発した小型セダンの「ソナタ」は、スタイルが整っており人気モデルとなった。そのモデルはふんばり感が強調されていた。僕はそっと、フェンダーの折り返しに手を触れてみて納得した。小さく折り畳まれていたのだ。
ソナタが防錆処理されていたのかは不明だが、そんなささやかな処理がクルマの印象を大きく変えるものだと納得した経験がある。
新型カローラは、ユーザー層の大幅な若返りを期待している。そのためには、1円のコスト低減よりも、2ミリのふんばり感を優先した。かつてのトヨタではできなかった大英断だ。
そう、されど2ミリ。だがその2ミリが持つ意味は大きいのだ。
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【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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