【京都発 輝く】鶏卵を世界の食卓に ナベル、全自動選別包装に磨き

 
社員と意見交換する南部邦男会長(左)=京都市南区(西川博明撮影)

 国産初の「鶏卵全自動選別包装装置」を開発するなど、鶏卵が農家から店頭へ出荷されるまでの技術を盛り込んだ産業用機械を製造・販売するナベル。こうした機械の国内シェアは約8割、世界シェアも約2割で世界2位といい、京都を代表する世界的企業の一社だ。技術力を磨き、鶏卵を世界の食卓に届ける“黒子役”に徹する。

 ラグビーがヒント

 国産初の鶏卵全自動選別包装装置を開発するきっかけになったのは1975年頃。町内に住む、オムロンの従業員の一言だった。

 「国産機械がない。機械の作り方教えるから。もうかるぞ」

 当時、20代後半だったナベル(旧・南部電機製作所)創業者の南部邦男会長は「面白そうや」と心を動かされた。オムロンや島津製作所、松下電器産業(現パナソニック)などの生産ラインに使う制御機器を下請け製造しながら、夕方以降は弟2人を含む仲間の社員らと国産初の実現に向けて、開発に夢中になった。

 しかし、うまくいかない。失敗の連続で、試作機では仕分ける前に鶏卵が割れてしまう。

 目的の機械より先に、超音波振動で卵パックの樹脂を溶かして蓋をする機械を日本で初めて開発し、「これが当たった」(南部会長)。不安だった資金面はこの機械のもうけをつぎ込める幸運もあり、5年がかりで79年、装置開発にこぎ着けた。

 「ラグビーのトライの動きがヒント」(南部会長)になり、鶏卵を1個ずつ優しくつかみ、割らずに包装する技術を機械に盛り込んだ。

 同社の役員室には、1枚の白黒写真が飾られている。南部会長が自らカメラを持ち、試運転に成功して喜ぶ社員らを撮影したものだ。南部会長は、同社の運命を決定づける写真として「当社の宝物。素晴らしい瞬間やった」と当時を振り返る。

 国産初の鶏卵全自動選別包装装置は、発売直後から順調に売れた。競合する海外企業の製品に比べ、販売価格を3分の1程度の2500万円に設定したためだ。鶏卵業者の間で「待ってましたとばかりに、口コミで製品が広がった」(南部会長)のも大きな要因だったという。

 しかし、順風満帆ばかりとはいかない。86年、米国の競合会社がナベルを相手取り、特許侵害があるとして訴訟を起こしてきた。

 約5年間争い、ナベルが5000万円の和解金を支払う実質敗訴の結果になったが、「売り上げが止まりかけて苦しかったが、特許は重要ということに気づかされた」(同)。シェア拡大につながる特許戦略強化の“授業料”になった。

 2004年には、国内で発生した鳥インフルエンザ騒動で売上高が半分になる危機があったが、何とか乗り切った。

 社員、顧客のために

 ナベルは、音感センサーで鶏卵のひびの有無を検知したり、血が含まれているかどうかを判別したりする世界初の技術を盛り込んだ機器類も開発。同社の鶏卵関連の機器類は今や国内でほぼ独占状態で、世界65カ国・地域へ広がった。

 南部会長は70歳を迎えたのを機に今年4月、次男の隆彦氏に社長の座を譲った。「会社は働く社員、お客さまのためにある。社員のやる気を引き出せば仕事の質も10倍違う。常にお客さま(鶏卵業者)のニーズに応え、喜んでもらうのが大事」

 戦時中は元従軍記者だった父、一朗さんと起業した同社の原点を次世代へ引き継ぐつもりだ。(西川博明)

【会社概要】ナベル

 ▽本社=京都市南区西九条森本町86番地

 ▽創業=1964年

 ▽設立=77年3月

 ▽資本金=8200万円

 ▽売上高=84億6100万円(2018年3月期)

 ▽従業員=185人(パート含む、同7月時点)

 ▽事業内容=鶏卵の自動洗浄選別包装装置、非破壊検査装置などの開発製造、販売、メンテナンス

 □南部隆彦社長

 ■世界シェア5割目指す

 --4月に社長に就任した。ナベルの基本戦略は

 「弊社の強みは技術開発力で、お客さま(鶏卵業者)に価値を提供する。国内シェアが8割を超えるが、世界ではナベルの知名度はまだまだだと思う」

 --鶏卵の機器類で世界シェア2割。今後の目標は

 「最終的には世界ナンバーワン。シェア50%は取りたい」

 --強力な競合相手がいる

 「オランダのモバが世界シェア5割以上。知名度も高く、歴史も古い。相手のシェアを崩しながら、東南アジアと中国でいかに地盤をつくっていくかになる」

 --シェアを広げる戦略は

 「マレーシア現地法人を通じASEAN(東南アジア諸国連合)で需要に応える体制を取る」

 --海外売上高が増えている

 「海外は近年、年間30%ずつ伸びている。売上高全体に占める比率は20~25%程度。今後5年をめどに国内6割、海外4割のイメージを意識している」

 --2日に本社隣に南工場ができ、生産能力が拡大した

 「単純に生産能力を2倍にしたわけでないが、受注がさらに増えれば受けられる安心感ができた。モノづくりに集中でき、生産改善を試す場所にしたい」

 --経営課題は

 「リスクは卵一本やりの事業である点。米国では豆由来の成分を使った人造卵、ビヨンドエッグが売られ、どこまで消費の主流になるか。鶏卵の方がコスト面で圧倒的に安い」

 --新卒採用でAI(人工知能)の導入も試験的に始めた

 「地方の学生に門戸を広げたい。ただ、人手不足で大手企業が採用を増やしており、内定を出した学生を持っていかれた」

 --父である創業者の邦男会長から経営面で継承した点は

 「社員のやる気や生きがいをどう高めるかを強く意識する。お客さんに価値を提供して私たち社員はお金がもらえる。ナベルは社員の幸せのためにある」

【プロフィル】南部隆彦

 なんぶ・たかひこ 京大工卒。京都銀行を経て、2004年ナベル入社。取締役開発本部長、常務取締役などを経て、18年4月から現職。38歳。京都府出身。

 ≪イチ押し!≫

 ■コンテナの積み上げ作業自動化

 「鶏卵業界の工務部門」を自任するナベルが今年度から販売に力を入れるのが、アーム型ロボットを使った産業用機器の新商品群だ。「スマート・キューブ」シリーズと名付け、6月下旬から第2弾として、卵パックが詰まった段ボールやコンテナを、パレットに積み上げる作業を自動化するケースパレタイザー「スマートキューブPL」を販売している。鶏卵パックが詰め込まれたケースを1時間当たり360ケース処理する能力がある。

 新製品の投入理由は好景気に加え、少子高齢化に伴う人手不足で「国内投資の質が変わり、鶏卵出荷の自動化がこれまで以上に求められてきている」(南部隆彦社長)ためだ。モノづくりの基本として、岡民子会長補佐は「会長(南部邦男氏)はいつも現場にヒントがあるとおっしゃる」。常に最新技術で鶏卵業者の悩みを解決する。