自動運転、高度な技術に到達 対象地域絞り早期サービス実施も
交通事故の根絶や新産業の創出が期待される“夢の技術”自動運転。研究開発の積み重ねにより、車が自動で走り、曲がり、停止する技術では高い水準に到達した。今後は運転の主体がドライバーから車(システム)に移り、自律的に判断するという高度な段階に入る。自動車各社はAIの研究に余念がなく、対象地域を限定することで早期のサービス実施を目指す動きも出ている。
AIが柔軟な運転実現
センサーやカメラなどを多数搭載した電気自動車は、後部座席に乗客を乗せると運転手が操作しなくてもスムーズに発進。交差点では対向車が途切れると危なげなく右折した。横浜市で2月に行われた自動運転車両による配車サービスのデモンストレーションの光景だ。日産自動車がディー・エヌ・エー(DeNA)と組んで計画している。
日産は2016年から、高速道路で前走車を追従したり、自動で駐車したりするなどの先進安全機能を主力車に順次、搭載してきた。中畔邦雄専務執行役員は「カバーできる場面を段階的に増やし、20年には交差点を含む一般道での自動運転を実現させたい」と意気込む。
ただ、「当然、気をつけなければならない場面も増える。周囲を認識し、判断する機能を進化させなければならない」とも強調する。
ホンダの研究開発子会社、本田技術研究所の杉本洋一上席研究員も「歩行者、自転車、バイクなどの動きは読みづらい。その中で、正確に予測を立てられるかどうかが課題だ」と指摘する。
人は経験などから、「ここは、このくらいのスピードを出しても大丈夫だ」という水準を見つけて運転している。しかし、システムが絶対的な安全運転をしようとすると徐行しかできなくなる。正確な予測に基づき、人のように柔軟な運転をどう実現するか。そうした判断を行うのがAIだ。
ホンダは香港に本拠を置くセンスタイムと共同で研究開発を進め、トヨタ自動車は米シリコンバレーに設立した新会社のトップに、米国防総省の研究機関、国防高等研究計画局(DARPA)の元幹部でAI研究の実績があるギル・プラット氏を据えるなど、外部の知見を導入する動きが加速している。
五輪で無人タクシー
「AIを使わないのが、ウチの特徴なんです」
群馬大次世代モビリティ社会実装研究センターの小木津(おぎつ)武樹副センター長は打ち明ける。自動運転について研究するこのセンターは11月にも、一般の乗客を乗せて前橋市内で自動運転の路線バスを走らせる。
営業車として登録し、実際に料金を取って運行する実証実験は全国初。早さの秘密は「地域限定」だ。
自動車各社がAIを導入するのは、どこでも走れる自動運転を実現するのに、数え切れないほどの交通環境のパターンに対応しなければならないからだ。これに対し、群馬大は対象地域を限定して詳細な地図データを作り込み、衛星利用測位システム(GPS)やセンサーを組み合わせることで自動運転を可能とした。
自動運転バスを切実に必要としているのは過疎化が進み、人手不足が深刻な地域だ。群馬大の取り組みが成功すれば、こうした地域には朗報となりそうだ。
世界中から観光客が訪れる2020年東京五輪・パラリンピックに合わせて地域限定のサービスを実施し、自動運転技術を広くアピールしようとする動きもある。
自動運転技術ベンチャー企業のZMPは、五輪会場となる東京・有明やお台場、羽田空港などで無人タクシーを運行させるため、市販車にセンサーやカメラを取り付けて改造し、自動化した車両をタクシー会社に販売する計画だ。
谷口恒(ひさし)社長は「五輪ではデモで終わらせず、無人運転による商用化サービスを提供したい。無人化で人件費を削減することが普及につながる」と話す。ただ、現行の道路交通法は、運転席にドライバーが座っていることを前提としている。無人タクシーの料金設定など、新しい課題も出てくる。
完全自動運転を「レベル5」と位置づけた米運輸省の5段階の区分でみると、現在実用化されている自動運転の多くは「2」に相当する。運転の主体が車となる「3」以降をにらみ、官民が足並みをそろえて環境整備を進める必要性がある。
異業種参入に危機感
自動運転が切り開く新市場について、DeNAの中島宏執行役員は「レンタカーやカーシェア、ライドシェア(相乗り)などが融合し、第2のモータリゼーションが起こる」と、その将来性に期待をかける。
一方でトヨタの豊田章男社長は、自動運転車の開発を進める米国のグーグルやアップルを念頭に「新たなライバルは、われわれの数倍のスピードで、豊富な資金を背景に新技術への積極的な投資を続けている」と異業種の参入に危機感を示す。
中国は国家主導で広大なモデル地区を設け、インフラと車両の通信を含めて技術を磨く。ソフトバンク子会社のSBドライブと中国のネット検索大手、百度(バイドゥ)が提携して日本で自動運転バスの実証実験に乗り出すなど、国境を越えた陣営づくりも進んでおり、有望市場の主導権争いは世界規模で激しくなっている。(高橋寛次)
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■自動運転に関する大手3社の目標
トヨタ 2020年に高速道路での自動運転を実用化、20年代前半に一般道での自動運転を実用化
日 産 20年までに交差点を含む一般道での自動運転技術を投入、22年に完全自動運転を実現
ホンダ 20年に高速道路での自動運転技術を実現、25年頃をめどにレベル4(高度自動運転)の技術を確立
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